CaLSとは、Computer aided Legal Studiesの略号で、伊藤博文が提唱する新しい法学研究手法です。
CaLS という命名の由来は、その名から連想されるごとく、アメリカの若手法律学研究者を中心に台頭した法学研究の新しい潮流である批判法学 (CLS:Critical Legal Studies) を念頭に置いている。既存の法律学に対する批判的な観点から、コンピュータテクノロジーを駆使して法律学の再構成を図ろうとするものである。

★ 法律学とコンピュータの関連

 ◎ コンピュータはどのように法律学にかかわるか
 
コンピュータが社会に広く普及し、日常生活でのコンピュータの役割が欠くことのできない社会、つまり『コンピュータ社会』において、法律学がコンピュータを無視し得ず何らかの対応が必要となることは明白である。では、コンピュータと法律学との関連はどの様に捉えるべきであろうか。私は、コンピュータの捉え方については、次のような方向に大きく二分できると考えている。
 A.「対象」としてのコンピュータ
 コンピュータ社会において、コンピュータを媒介として生ずる法律問題を法律学が対処し、これを調査研究する方向である。既存の法体系ではコンピュータ社会に生ずる様々な問題に対処できないものを研究対象として扱っていくことであり、法律学がコンピュータを法律学の研究対象として捉えていく方向である。
B.「手段」としてのコンピュータ
 コンピュータの持つ種々の有用な機能を法律学の中に導入していくという研究方向である。コンピュータの持つ様々な機能、つまり情報処理機能、情報記憶機能、IO機能、通信制御機能、等を有効に活用して、法律学研究独自の特徴に合わせてコンピュータを利用していくという方向である。

 具体的なAの「対象」としてのコンピュータの取組みの実例としては、まず刑法におけるコンピュータ犯罪への取組みが挙げられる。また、情報の機密性とプライバシーの問題、ソフトウェアの著作権保護の問題に対する取組み等もある。そしてBの「手段」としてのコンピュータの取組み例としては、アメリカで既に実用化されているオンラインデータベースによる判例検索システムの活用のように、コンピュータを法律学研究の道具として利用することが挙げられよう。
 しかしながら、Bの方向について現状では積極的に研究がなされているわけではなく、今後検討され研究されるべき分野なのである。そこで、私の提唱するCaLSは、まさにBの方向、法律学にコンピュータを「手段として」導入するという研究を内容とするものである。

 ◎ コンピュータ法学(CaLS)の提唱

 一口にコンピュータ法学といっても様々なアプローチが存在する。事実、全国の大学の法学部等で進められている「法とコンピュータ」に対する取組み方も多種多様である。こうした研究分野が黎明期にあり確固とした研究スタイルが確立されていない以上、多様な研究手法があってしかるべきである。むしろ、何らかの支配的な研究手法に多様性が収斂され、画一的な研究手法がはびこることの方が独創性をつみとる危険があろう。
 この多様性の中の一手法としてのコンピュータに対するCaLSの取組み方を述べるにあたり、なぜ、コンピュータと法律学の関連において、このような名称を付けて、独自の学問分野として個別に扱う必要があるのか、という疑問が当然のこととして生じてこよう。
 まず、この研究領域が今までの法律学とは特異なものであることを理解していただきたい。特異性ゆえに学問領域を独立させることは不可思議ではない。そしてさらには、確かにはじまりは、現在行われている法律学の手法に乗っ取って研究を展開していく領域であり、あくまでも『手段』に過ぎないが、将来的には法律学研究・法学教育のありかたそのものを変革させる可能性を持つ領域であるからこそ独自性が必要となる。

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