平成10年度 豊橋創造大学開放講座(愛知県民大学講座)
「異分野」理解のすすめ
第6回 『コンピュータで法学する』
1998年7月18日(土)14:00〜16:00 at 豊橋創造大学B14教室
担当: 豊橋創造大学短期大学部実務教育科助教授
伊藤 博文(いとう ひろふみ)
-- Resume --
『コンピュータで法学する------
コンピュータ法学(CaLS)の挑戦』
1.法律学とコンピュータの接点
1−1.法律学とは何をする学問なのか
法律学とは、「広義では法に関する体系的な学問を指し、法解釈学のほかに、法哲学・法制史・法社会学・比較法学・立法政策などを含む。狭義では実定法の内容を体系的・整合的に説明する法解釈学(解釈法学)を指す」(広辞苑)と説明され、その中心は法解釈学である。
1−2.法律学の学問的性格
法学(法解釈学)は、「白を黒といいくるめるための学問」と評され、「真の意味での科学ではないという批判はこれまでしばしばなされてきた。確かに法学は法現象を事実としてあるがままに考察し研究する学問ではない。法をあるがままに研究するのは法の諸科学(法社会学等)の任務である。これに対して法学は法の公正かつ妥当な解釈・適用を目的とし,そのために法の内容を研究し体系的に理解しようと努める。法学の科学性に対する懐疑としては,1847年にドイツの裁判官J.vonキルヒマンが行った〈法律学の学問としての無価値性について〉という講演が有名である。キルヒマンはこの中で,法という人為の産物であり時勢とともに変遷する対象を扱う法学は厳密な意味で学問の資格を有しないと説き,〈立法者が三たび改正のことばを語れば万巻の法律書が反故(ほご)と化する〉と主張した。(以下略)」(平凡社世界大百科事典)
1−3.コンピュータ法学(CaLS)とは何か
コンピュータ法学(CaLS:Computer aided Legal
Studies)とは、従来の法律学研究・教育にコンピュータを「手段」として導入し、効率的な法律学研究を進めようとするものである。CaLSという命名の由来は、アメリカの若手法律学研究者を中心に台頭した法学研究の新しい潮流である批判法学(CLS:Critical Legal Studies)を念頭に置いており、既存の法律学に対する批判的な観点から、コンピュータ・テクノロジーを駆使して法律学の再構成を図ろうとするものである。
1−4.法律学とコンピュータとのかかわりあい
★「対象」としてのコンピュータ ← コンピュータ犯罪、電子商取引、
情報公開とプライバシー、著作権など。
★「手段」としてのコンピュータ ← CaLS(コンピュータを法学教育・研究にどのように
活用していくかを研究)
2.法律学におけるコンピュータの活用
2−1.コンピュータを使うと何ができるのか
2−1−1.「思考表現の道具」としてのコンピュータ
★脳裏に浮かんだことを瞬時に画面に表現できる道具
★飛躍的な情報処理能力の向上
2−1−2.文書作成、情報伝達・収集の道具
★用語の意味を調べる
★法律文献を調べる
★判例を調べる
2−2.能力区分による法律学へのコンピュータ導入
★段階に応じた対応が必要となる。
★コンピュータ・ユーザーの能力による段階付け
第一段階 ワープロ、表計算 ← 文書作成
第二段階 情報検索 ← 文献・判例検索(CD-ROM、オンライン)、インターネット
第三段階 エキスパートシステム ← 法律相談、専門家のための知的支援
第四段階 考えるコンピュータ
← 法解釈システム、判例法抽出システム
2−3.コンピュータを活用する法律学
★コンピュータを使った法律研究
★コンピュータを使った法学教育
3.法学教育への導入
3−1.コンピュータによる教育とは
★コンピュータ教育とコンピュータによる教育
コンピュータそのものの操作活用方法を教える「コンピュータ教育」とコンピュータを使って効率的に教育を行う「コンピュータによる教育」を考える必要がある。
3−1−1.CAI(Computer Aided Instruction)
★コンピュータに依る情報伝達の特殊性
マルチメディア化(文字、画像、音声、動画)、インターラクティブ、ゲーム性、バーチャル・リアリティ
3−1−2.CAIの前提としてのコンピュータ・リテラシー
★効率的にCAIを行うには、コンピュータリテラシーが不可欠。
★コンピュータ・リテラシーは時代と共に変化する。
★今、コンピュータ教育は、小学校も大学も同じことを行っている。
3−2.法律学の特徴
★文字情報を中心とした学問
★判例・文献の収集という情報収集・情報処理
4.将来的な展望
4−1.コンピュータの持つ問題点
★常識の通じないコンピュータ
★ブラックボックス主義
★人工知能の問題→コンピュータは考えることができるか?
4−2.コンピュータ法学(CaLS)の挑戦
★着実な研究成果の発表 → 技術的提言
★電子文字化と法律研究
★法学教材開発 ゲーム的な要素
4−3.近未来の法律学
★電子文字化された法情報 → ハードディスク上の六法と判例集 → 電子図書館
★遠隔地授業 → 世界中の大学の好きな講義が自宅で受講できる
★マルチメディア化された教科書 → 音声、動画を使った教科書
★コンピュータによる法的推論 → 裁判の迅速化、法解釈学への貢献
資 料
T."もっと詳しく知りたい!!"という方へ
A.コンピュータ法学(CaLS)について
→伊藤博文『法律学のためのコンピュータ』日本評論社(1997年)
B.電子文字化の意味について
→伊藤博文「電子文字化と法律研究」豊橋短期大学研究紀要11号121頁(1994年)
(上記『法律学のためのコンピュータ』にも一部収録)
C.法律学におけるコンピュータの利用について
→加賀山茂『法律家のためのコンピュータ利用法』有斐閣(1990年)
D.コンピュータの法学教育への利用について
→伊藤博文「法学教育にコンピュータを--CaLSからの提案」豊橋短期大学研究紀要第13号19頁(1996年)
→伊藤博文「イントラネットを利用した法学教材提示システムの構築」豊橋創造大学短期大学部研究紀要第14号(1997年)
→法学教育研究班『法学教育におけるコンピュータの利用』関西大学法学研究所研究叢書第11冊(1995年)
→武士俣敦「法学教育とコンピュータ(1)」福岡大学法学論叢第35巻第4号449頁(1991年)、武士俣敦「法学教育とコンピュータ(2・完)」第37巻第1号33頁(1992年)
E.ゲームを使った法学教育
→松岡久和「法学教育とCAI」龍谷法学第26巻3・4号(1994年)
F.インターネットと法律学
→指宿信・米丸恒治『法律学のためのインターネット』日本評論社(1996年)
U.インターネットを使われる方への情報
G.知っておくと便利な法情報URL
金沢大学法学部ホームページ (http://www.law.kanazawa.ac.jp)
大阪大学法学部ホームページ (http://www.law.osaka.ac.jp)
H.伊藤博文のメールアドレス hirofumi@sozo.ac.jp
V.読み物---ちょっと読んでいただくと面白い記事です
出典は、すべてインプレス社 インターネット・ウォッチ記事より
記事-1.[教育]
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06:文部大臣が2003年までにすべての学校をインターネットに接続する方針を表明
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町村信孝文部大臣は4日閣議後の記者会見で、2003年までにすべての学校をインターネットに接続する方針を明らかにした。
会見では、全国のすべての国公私立の学校を対象に、2001年までに中・高等学校および特殊教育学校、2003年までに小学校をインターネットに接続するとした。また国公立の学校に関しては通信費やインターネット接続料として約81億円を地方交付税で措置するよう自治省に求めていくとしている。
文部省によると、今年5月時点で、公立学校のインターネット接続率は全学校合計で9.8%、小学校に限ると7.3%にとどまっている。
[Reported by kikuchi@impress.co.jp / 金丸雄一]
記事-2.[教育]
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01:文部省らが教育現場でのインターネットの問題点を検討
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文部省と郵政省は14日、教育現場でインターネットを利用する際の問題点などを検討するための研究会「教育分野におけるインターネットの活用促進に関する懇親会」を12月より設置する。
この研究会では、インターネット上のわいせつ画像などへの対策として、現在市販されているフィルタリングソフトについて実際の効果や使い勝手などを検討する。また、インターネット利用にかかる通信料や接続料を一般ユーザーより割安にしたり、教材用ソフトの制作を助成する財政支援についても検討する。来年春までに結果をまとめ、関係業界などに働きかけていく。
文部省では先に、2003年までにすべての学校をインターネットに接続する方針を表明しているが(本誌'97年11月5号参照)、今回の研究会設置は具体的な取り組みの一つ。
[Reported by kikuchi@impress.co.jp/金丸雄一]
記事-3.[教育]
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05:郵政省と文部省がインターネットを利用した教育に関し提言
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http://www.mpt.go.jp/whatsnew/edu_inet.html
学校現場へのインターネット導入を進めるため郵政省と文部省が共同で開いていた「教育分野におけるインターネットの活用促進に関する懇談会」(郵政相と文相の私的懇談会)は17日、昨年12月から今年6月にかけて話し合われた内容をまとめ、130ページにおよぶ提言書を公表した。なお、ベースとなった提言案は5月末に公開されている(本誌5月28日号参照)。
小中高等学校は全国に約4万校。現在、インターネットに接続しているのはそのうち約18%なのに対し、米国では78%の学校が接続している。こうした状況下で文部省は昨年、2001年までに中・高等学校、2003年までに小学校とすべての学校をインターネットに接続するとしていた(本誌'97年11月6日号参照)。
今回の提言では、こうした環境整備と同時に下記6つの活用促進策の必要性が強調されている。
・教育情報の充実をはかること
・有害情報のフィルタリング技術の開発
・教員のインターネット利用能力育成
・地方自治体やボランティアを中心とするサポート体制の整備
・光ファイバー等を利用した高速回線の導入
・通信料金等の負担軽減に向けての支援と通信事業者への働きかけ
しかし、多くの自治体が採用している「個人情報保護条例」に関わるトラブル(本誌'96年12月3日号、'97年5月21日号参照)や、米連邦取引委員会が今月4日に提言した子供からの情報収集に関する規制強化案(本誌6月8日号参照)など、子供たちの情報発信に対する考察は十分とは言いがたい。
[Reported by yuno@impress.co.jp]
記事-4.[コンピュータ教育とインターネット]
コンピュータ教育の重要性が社会的に高まり、文部省も90年に「教育用コンピュータ整備計画」をスタートさせて以来、教育機関におけるコンピュータ普及率は急速に向上している。(今回の調査では、小学校で84.7%、中学校が99.7%、高校は100%に達していた。)しかしながら、コンピュータを最低限活用できる知識を得るコンピュータ・リテラシー教育は十分なものではない。実際にコンピュータを教えられる教員が極端に少ないことが問題である。この数の少なさによる教育内容の質も問題である。コンピュータを教えるための教育方法論も確立しておらず、どのような内容をどのレベルの教育機関で教えるべきかがはっきりしていない。つまり、コンピュータというものが、社会全体に一度に出現してきたため、小学校でも中学校でも大学やカルチャースクールでも同じことを教えている。コンピュータ教育という観点からは、好ましいものではないことは明白である。本来、コンピュータリテラシーは初等教育段階で修得し、より高度な利用方法を高等教育機関で学び実践すべきものである。
教育機関でのインターネット教育が未成熟であるために、どのような問題が起きるかというと、世代間の差がはっきりしてくる、ネチケットといったモラル教育がなされない。コンピュータには親しむ世代であっても、普通科高校では大学受験科目とは縁遠いコンピュータ教育は無縁である。多くは、大学でも触れることなく、社会に出てから初めてコンピュータと接することになり、社内教育、独習、パソコンスクールで学ぶこととなる。
記事-5.[インターネットが社会のすべてを変える]
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01:米Cisco Systems社John T. Chambers氏基調講演
「インターネットが社会のすべてを変える」
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http://www.watch.impress.co.jp/internet/www/article/980604/key2.htm
4日の基調講演は、米Cisco Systems社代表取締役社長兼CEOのJohn T. Chambers氏。「これからのインターネット〜未来への挑戦」と題して、インターネットが社会にもたらした変化と今後の展望について語った。
Chambers氏はまず「インターネットによってもたらされた社会の変化、すなわち生活の変化、ビジネスの変化、ニュースの入手方法の変化、学習方法の変化などは、まさに革命的な出来事であり、産業革命に匹敵するものである」と述べ、「インターネットは、(産業革命のときと同様に)持つ者と持たざる者を分ける重要な要素である」と指摘した。
しかし、現代の「革命」は「産業革命のように数百年かかってゆるやかに浸透するものではなく、20〜30年で世界に広がった」とし、インターネットのもたらした社会の変化がいかに急速だったかを説明した。また、この「革命」を促した要素として、テクノロジーの進歩と、ビジネス上の理由の二つが挙げられるとし、とくに後者が大きな理由だったと指摘した。現在では、ビジネス分野におけるインターネットの利用は、生産性の向上だけでなく国の成長をも促すものと考えられているという。
続いてステージ上では、この「革命」が実際にどういった側面に現われているのかを説明するデモンストレーションが行なわれた。まず最初のデモは、固定電話、携帯電話、インターネット電話のそれぞれで通話し、来場者にどれがインターネット電話によるものかを当ててもらうというもの。米国での通話料金は、それぞれ1分あたり、携帯電話が45セント、固定電話が10セント、インターネット電話が5セントということだが、音を聞くだけではインターネット電話はほとんど他のシステムと区別できなかった。低料金が特徴のインターネット電話だが、技術の進歩を印象づけ、音声通信とデータ通信の統合を感じさせるものとなった。
続くデモでは、医療への導入例が紹介された。胎児をスキャンした画像を「WebPro」という技術によりインターネットを介して閲覧できるようにしたシステムで、これにより遠隔地の患者を診療したり、違う病院の医師同士で互いに患者の情報を共有できるようになる。現在1.5〜3%にとどまっているネットワークへの投資を7〜12%に引き上げることで、医療コストを削減できるだけでなく、医療の質そのものも向上させることができるという。
最後にChambers氏は、これから数年間にかけて起こるであろうネットワークの進歩について予想した。まず、現在は別々に提供されている音声・映像・データのネットワークが統合されるという。これにより、キャリアの競争・淘汰が起こり、音声サービスは無料で提供されるものとなる。最終的には世界で数社のキャリアが残り、いずれはネットワークがすべて統合される。氏は「70%の確率で、この予想通りになるだろう」と締めくくった。
[Reported by nagasawa@impress.co.jp]
以 上