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第三編 債権 第三編 債権  
第一章 総則 第一章 総則  
第一節 債権の目的 第一節 債権ノ目的  
(債権の目的)    
第三百九十九条 債権は、金銭に見積もることができないものであっても、その目的とすることができる。 第三百九十九条  債権ハ金銭ニ見積ルコトヲ得サルモノト雖モ之ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得  
(特定物の引渡しの場合の注意義務)    
第四百条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。 第四百条  債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ債務者ハ其引渡ヲ為スマテ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ其物ヲ保存スルコトヲ要ス  
(種類債権)    
第四百一条 債権の目的物を種類のみで指定した場合において、法律行為の性質又は当事者の意思によってその品質を定めることができないときは、債務者は、中等の品質を有する物を給付しなければならない。 第四百一条  債権ノ目的物ヲ指示スルニ種類ノミヲ以テシタル場合ニ於テ法律行為ノ性質又ハ当事者ノ意思ニ依リテ其品質ヲ定ムルコト能ハサルトキハ債務者ハ中等ノ品質ヲ有スル物ヲ給付スルコトヲ要ス  
2 前項の場合において、債務者が物の給付をするのに必要な行為を完了し、又は債権者の同意を得てその給付すべき物を指定したときは、以後その物を債権の目的物とする。 2 前項ノ場合ニ於テ債務者カ物ノ給付ヲ為スニ必要ナル行為ヲ完了シ又ハ債権者ノ同意ヲ得テ其給付スヘキ物ヲ指定シタルトキハ爾後其物ヲ以テ債権ノ目的物トス  
(金銭債権)    
第四百二条 債権の目的物が金銭であるときは、債務者は、その選択に従い、各種の通貨で弁済をすることができる。ただし、特定の種類の通貨の給付を債権の目的としたときは、この限りでない。 第四百二条  債権ノ目的物カ金銭ナルトキハ債務者ハ其選択ニ従ヒ各種ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得但特種ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタルトキハ此限ニ在ラス  
2 債権の目的物である特定の種類の通貨が弁済期に強制通用の効力を失っているときは、債務者は、他の通貨で弁済をしなければならない。 2 債権ノ目的タル特種ノ通貨カ弁済期ニ於テ強制通用ノ効力ヲ失ヒタルトキハ債務者ハ他ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ要ス  
3 前二項の規定は、外国の通貨の給付を債権の目的とした場合について準用する。 3 前二項ノ規定ハ外国ノ通貨ノ給付ヲ以テ債権ノ目的ト為シタル場合ニ之ヲ準用ス  
第四百三条 外国の通貨で債権額を指定したときは、債務者は、履行地における為替相場により、日本の通貨で弁済をすることができる。 第四百三条  外国ノ通貨ヲ以テ債権額ヲ指定シタルトキハ債務者ハ履行地ニ於ケル為替相場ニ依リ日本ノ通貨ヲ以テ弁済ヲ為スコトヲ得  
(法定利率)    
第四百四条 利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年五分とする。 第四百四条  利息ヲ生スヘキ債権ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其利率ハ年五分トス  
(利息の元本への組入れ)    
第四百五条 利息の支払が一年分以上延滞した場合において、債権者が催告をしても、債務者がその利息を支払わないときは、債権者は、これを元本に組み入れることができる。 第四百五条  利息カ一年分以上延滞シタル場合ニ於テ債権者ヨリ催告ヲ為スモ債務者カ其利息ヲ払ハサルトキハ債権者ハ之ヲ元本ニ組入ルルコトヲ得  
(選択債権における選択権の帰属)    
第四百六条 債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。 第四百六条  債権ノ目的カ数個ノ給付中選択ニ依リテ定マルヘキトキハ其選択権ハ債務者ニ属ス  
(選択権の行使)    
第四百七条 前条の選択権は、相手方に対する意思表示によって行使する。 第四百七条  前条ノ選択権ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ行フ  
2 前項の意思表示は、相手方の承諾を得なければ、撤回することができない。 2 前項ノ意思表示ハ相手方ノ承諾アルニ非サレハ之ヲ取消スコトヲ得ス  
(選択権の移転)    
第四百八条 債権が弁済期にある場合において、相手方から相当の期間を定めて催告をしても、選択権を有する当事者がその期間内に選択をしないときは、その選択権は、相手方に移転する。 第四百八条  債権カ弁済期ニ在ル場合ニ於テ相手方ヨリ相当ノ期間ヲ定メテ催告ヲ為スモ選択権ヲ有スル当事者カ其期間内ニ選択ヲ為ササルトキハ其選択権ハ相手方ニ属ス  
(第三者の選択権)    
第四百九条 第三者が選択をすべき場合には、その選択は、債権者又は債務者に対する意思表示によってする。 第四百九条  第三者カ選択ヲ為スヘキ場合ニ於テハ其選択ハ債権者又ハ債務者ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス  
2 前項に規定する場合において、第三者が選択をすることができず、又は選択をする意思を有しないときは、選択権は、債務者に移転する。 2 第三者カ選択ヲ為スコト能ハス又ハ之ヲ欲セサルトキハ選択権ハ債務者ニ属ス  
(不能による選択債権の特定)    
第四百十条 債権の目的である給付の中に、初めから不能であるもの又は後に至って不能となったものがあるときは、債権は、その残存するものについて存在する。 第四百十条  債権ノ目的タルヘキ給付中始ヨリ不能ナルモノ又ハ後ニ至リテ不能ト為リタルモノアルトキハ債権ハ其残存スルモノニ付キ存在ス  
2 選択権を有しない当事者の過失によって給付が不能となったときは、前項の規定は、適用しない。 2 選択権ヲ有セサル当事者ノ過失ニ因リテ給付カ不能ト為リタルトキハ前項ノ規定ヲ適用セス  
(選択の効力)    
第四百十一条 選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。 第四百十一条  選択ハ債権発生ノ時ニ遡リテ其効力ヲ生ス但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス  
第二節 債権の効力 第二節 債権ノ効力  
第一款 債務不履行の責任等    
(履行期と履行遅滞)    
第四百十二条 債務の履行について確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来した時から遅滞の責任を負う。 第四百十二条  債務ノ履行ニ付キ確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到来シタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス  
2 債務の履行について不確定期限があるときは、債務者は、その期限の到来したことを知った時から遅滞の責任を負う。 2 債務ノ履行ニ付キ不確定期限アルトキハ債務者ハ其期限ノ到来シタルコトヲ知リタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス  
3 債務の履行について期限を定めなかったときは、債務者は、履行の請求を受けた時から遅滞の責任を負う。 3 債務ノ履行ニ付キ期限ヲ定メサリシトキハ債務者ハ履行ノ請求ヲ受ケタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス  
(受領遅滞)    
第四百十三条 債権者が債務の履行を受けることを拒み、又は受けることができないときは、その債権者は、履行の提供があった時から遅滞の責任を負う。 第四百十三条  債権者カ債務ノ履行ヲ受クルコトヲ拒ミ又ハ之ヲ受クルコト能ハサルトキハ其債権者ハ履行ノ提供アリタル時ヨリ遅滞ノ責ニ任ス  
(履行の強制)    
第四百十四条 債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 第四百十四条  債務者カ任意ニ債務ノ履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其強制履行ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス  
2 債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。 2 債務ノ性質カ強制履行ヲ許ササル場合ニ於テ其債務カ作為ヲ目的トスルトキハ債権者ハ債務者ノ費用ヲ以テ第三者ニ之ヲ為サシムルコトヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但法律行為ヲ目的トスル債務ニ付テハ裁判ヲ以テ債務者ノ意思表示ニ代フルコトヲ得  
3 不作為を目的とする債務については、債務者の費用で、債務者がした行為の結果を除去し、又は将来のため適当な処分をすることを裁判所に請求することができる。 3 不作為ヲ目的トスル債務ニ付テハ債務者ノ費用ヲ以テ其為シタルモノヲ除却シ且将来ノ為メ適当ノ処分ヲ為スコトヲ請求スルコトヲ得  
4 前三項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。 4 前三項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
(債務不履行による損害賠償)    
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。 第四百十五条  債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキ亦同シ 債務の不履行があった場合でも,それが債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,損害賠償の責任を負わない旨を明らかにしている。
(損害賠償の範囲)    
第四百十六条 債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。 第四百十六条  損害賠償ノ請求ハ債務ノ不履行ニ因リテ通常生スヘキ損害ノ賠償ヲ為サシムルヲ以テ其目的トス  
2 特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。 2 特別ノ事情ニ因リテ生シタル損害ト雖モ当事者カ其事情ヲ予見シ又ハ予見スルコトヲ得ヘカリシトキハ債権者ハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得  
(損害賠償の方法)    
第四百十七条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。 第四百十七条  損害賠償ハ別段ノ意思表示ナキトキハ金銭ヲ以テ其額ヲ定ム  
(過失相殺)    
第四百十八条 債務の不履行に関して債権者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の責任及びその額を定める。 第四百十八条  債務ノ不履行ニ関シ債権者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ責任及ヒ其金額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌ス  
(金銭債務の特則)    
第四百十九条 金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。 第四百十九条  金銭ヲ目的トスル債務ノ不履行ニ付テハ其損害賠償ノ額ハ法定利率ニ依リテ之ヲ定ム但約定利率カ法定利率ニ超ユルトキハ約定利率ニ依ル  
2 前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。 2 前項ノ損害賠償ニ付テハ債権者ハ損害ノ証明ヲ為スコトヲ要セス又債務者ハ不可抗力ヲ以テ抗弁ト為スコトヲ得ス  
3 第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。    
(賠償額の予定)    
第四百二十条 当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができる。この場合において、裁判所は、その額を増減することができない。 第四百二十条  当事者ハ債務ノ不履行ニ付キ損害賠償ノ額ヲ予定スルコトヲ得此場合ニ於テハ裁判所ハ其額ヲ増減スルコトヲ得ス  
2 賠償額の予定は、履行の請求又は解除権の行使を妨げない。 2 賠償額ノ予定ハ履行又ハ解除ノ請求ヲ妨ケス  
3 違約金は、賠償額の予定と推定する。 3 違約金ハ之ヲ賠償額ノ予定ト推定ス  
第四百二十一条 前条の規定は、当事者が金銭でないものを損害の賠償に充てるべき旨を予定した場合について準用する。 第四百二十一条  前条ノ規定ハ当事者カ金銭ニ非サルモノヲ以テ損害ノ賠償ニ充ツヘキ旨ヲ予定シタル場合ニ之ヲ準用ス  
(損害賠償による代位)    
第四百二十二条 債権者が、損害賠償として、その債権の目的である物又は権利の価額の全部の支払を受けたときは、債務者は、その物又は権利について当然に債権者に代位する。 第四百二十二条  債権者カ損害賠償トシテ其債権ノ目的タル物又ハ権利ノ価額ノ全部ヲ受ケタルトキハ債務者ハ其物又ハ権利ニ付キ当然債権者ニ代位ス  
第二款 債権者代位権及び詐害行為取消権    
(債権者代位権)    
第四百二十三条 債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。 第四百二十三条  債権者ハ自己ノ債権ヲ保全スル為メ其債務者ニ属スル権利ヲ行フコトヲ得但債務者ノ一身ニ専属スル権利ハ此限ニ在ラス  
2 債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。 2 債権者ハ其債権ノ期限カ到来セサル間ハ裁判上ノ代位ニ依ルニ非サレハ前項ノ権利ヲ行フコトヲ得ス但保存行為ハ此限ニ在ラス  
(詐害行為取消権)    
第四百二十四条 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者又は転得者がその行為又は転得の時において債権者を害すべき事実を知らなかったときは、この限りでない。 第四百二十四条  債権者ハ債務者カ其債権者ヲ害スルコトヲ知リテ為シタル法律行為ノ取消ヲ裁判所ニ請求スルコトヲ得但其行為ニ因リテ利益ヲ受ケタル者又ハ転得者カ其行為又ハ転得ノ当時債権者ヲ害スヘキ事実ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス  
2 前項の規定は、財産権を目的としない法律行為については、適用しない。 2 前項ノ規定ハ財産権ヲ目的トセサル法律行為ニハ之ヲ適用セス  
(詐害行為の取消しの効果)    
第四百二十五条 前条の規定による取消しは、すべての債権者の利益のためにその効力を生ずる。 第四百二十五条  前条ノ規定ニ依リテ為シタル取消ハ総債権者ノ利益ノ為メニ其効力ヲ生ス  
(詐害行為取消権の期間の制限)    
第四百二十六条 第四百二十四条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 第四百二十六条  第四百二十四条ノ取消権ハ債権者カ取消ノ原因ヲ覚知シタル時ヨリ二年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ  
第三節 多数当事者の債権及び債務 第三節 多数当事者ノ債権  
第一款 総則 第一款 総則  
(分割債権及び分割債務)    
第四百二十七条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。 第四百二十七条  数人ノ債権者又ハ債務者アル場合ニ於テ別段ノ意思表示ナキトキハ各債権者又ハ各債務者ハ平等ノ割合ヲ以テ権利ヲ有シ又ハ義務ヲ負フ  
第二款 不可分債権及び不可分債務 第二款 不可分債務  
(不可分債権)    
第四百二十八条 債権の目的がその性質上又は当事者の意思表示によって不可分である場合において、数人の債権者があるときは、各債権者はすべての債権者のために履行を請求し、債務者はすべての債権者のために各債権者に対して履行をすることができる。 第四百二十八条  債権ノ目的カ其性質上又ハ当事者ノ意思表示ニ因リテ不可分ナル場合ニ於テ数人ノ債権者アルトキハ各債権者ハ総債権者ノ為メニ履行ヲ請求シ又債務者ハ総債権者ノ為メ各債権者ニ対シテ履行ヲ為スコトヲ得  
(不可分債権者の一人について生じた事由等の効力)    
第四百二十九条 不可分債権者の一人と債務者との間に更改又は免除があった場合においても、他の不可分債権者は、債務の全部の履行を請求することができる。この場合においては、その一人の不可分債権者がその権利を失わなければ分与される利益を債務者に償還しなければならない。 第四百二十九条  不可分債権者ノ一人ト其債務者トノ間ニ更改又ハ免除アリタル場合ニ於テモ他ノ債権者ハ債務ノ全部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得但其一人ノ債権者カ其権利ヲ失ハサレハ之ニ分与スヘキ利益ヲ債務者ニ償還スルコトヲ要ス  
2 前項に規定する場合のほか、不可分債権者の一人の行為又は一人について生じた事由は、他の不可分債権者に対してその効力を生じない。 2 此他不可分債権者ノ一人ノ行為又ハ其一人ニ付キ生シタル事項ハ他ノ債権者ニ対シテ其効力ヲ生セス  
(不可分債務)    
第四百三十条 前条の規定及び次款(連帯債務)の規定(第四百三十四条から第四百四十条までの規定を除く。)は、数人が不可分債務を負担する場合について準用する。 第四百三十条  数人カ不可分債務ヲ負担スル場合ニ於テハ前条ノ規定及ヒ連帯債務ニ関スル規定ヲ準用ス但第四百三十四条乃至第四百四十条ノ規定ハ此限ニ在ラス  
(可分債権又は可分債務への変更)    
第四百三十一条 不可分債権が可分債権となったときは、各債権者は自己が権利を有する部分についてのみ履行を請求することができ、不可分債務が可分債務となったときは、各債務者はその負担部分についてのみ履行の責任を負う。 第四百三十一条  不可分債務カ可分債務ニ変シタルトキハ各債権者ハ自己ノ部分ニ付テノミ履行ヲ請求スルコトヲ得又各債務者ハ其負担部分ニ付テノミ履行ノ責ニ任ス  
第三款 連帯債務 第三款 連帯債務  
(履行の請求)    
第四百三十二条 数人が連帯債務を負担するときは、債権者は、その連帯債務者の一人に対し、又は同時に若しくは順次にすべての連帯債務者に対し、全部又は一部の履行を請求することができる。 第四百三十二条  数人カ連帯債務ヲ負担スルトキハ債権者ハ其債務者ノ一人ニ対シ又ハ同時若クハ順次ニ総債務者ニ対シテ全部又ハ一部ノ履行ヲ請求スルコトヲ得  
(連帯債務者の一人についての法律行為の無効等)    
第四百三十三条 連帯債務者の一人について法律行為の無効又は取消しの原因があっても、他の連帯債務者の債務は、その効力を妨げられない。 第四百三十三条  連帯債務者ノ一人ニ付キ法律行為ノ無効又ハ取消ノ原因ノ存スル為メ他ノ債務者ノ債務ノ効力ヲ妨クルコトナシ  
(連帯債務者の一人に対する履行の請求)    
第四百三十四条 連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。 第四百三十四条  連帯債務者ノ一人ニ対スル履行ノ請求ハ他ノ債務者ニ対シテモ其効力ヲ生ス  
(連帯債務者の一人との間の更改)    
第四百三十五条 連帯債務者の一人と債権者との間に更改があったときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。 第四百三十五条  連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ更改アリタルトキハ債権ハ総債務者ノ利益ノ為メニ消滅ス  
(連帯債務者の一人による相殺等)    
第四百三十六条 連帯債務者の一人が債権者に対して債権を有する場合において、その連帯債務者が相殺を援用したときは、債権は、すべての連帯債務者の利益のために消滅する。 第四百三十六条  連帯債務者ノ一人カ債権者ニ対シテ債権ヲ有スル場合ニ於テ其債務者カ相殺ヲ援用シタルトキハ債権ハ総債務者ノ利益ノ為メニ消滅ス  
2 前項の債権を有する連帯債務者が相殺を援用しない間は、その連帯債務者の負担部分についてのみ他の連帯債務者が相殺を援用することができる。 2 右ノ債権ヲ有スル債務者カ相殺ヲ援用セサル間ハ其債務者ノ負担部分ニ付テノミ他ノ債務者ニ於テ相殺ヲ援用スルコトヲ得  
(連帯債務者の一人に対する免除)    
第四百三十七条 連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。 第四百三十七条  連帯債務者ノ一人ニ対シテ為シタル債務ノ免除ハ其債務者ノ負担部分ニ付テノミ他ノ債務者ノ利益ノ為メニモ其効力ヲ生ス  
(連帯債務者の一人との間の混同)    
第四百三十八条 連帯債務者の一人と債権者との間に混同があったときは、その連帯債務者は、弁済をしたものとみなす。 第四百三十八条  連帯債務者ノ一人ト債権者トノ間ニ混同アリタルトキハ其債務者ハ弁済ヲ為シタルモノト看做ス  
(連帯債務者の一人についての時効の完成)    
第四百三十九条 連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。 第四百三十九条  連帯債務者ノ一人ノ為メニ時効カ完成シタルトキハ其債務者ノ負担部分ニ付テハ他ノ債務者モ亦其義務ヲ免ル  
(相対的効力の原則)    
第四百四十条 第四百三十四条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。 第四百四十条  前六条ニ掲ケタル事項ヲ除ク外連帯債務者ノ一人ニ付キ生シタル事項ハ他ノ債務者ニ対シテ其効力ヲ生セス  
(連帯債務者についての破産手続の開始)    
第四百四十一条 連帯債務者の全員又はそのうちの数人が破産手続開始の決定を受けたときは、債権者は、その債権の全額について各破産財団の配当に加入することができる。 第四百四十一条  連帯債務者ノ全員又ハ其中ノ数人カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ債権者ハ其債権ノ全額ニ付キ各財団ノ配当ニ加入スルコトヲ得  
(連帯債務者間の求償権)    
第四百四十二条 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たときは、その連帯債務者は、他の連帯債務者に対し、各自の負担部分について求償権を有する。 第四百四十二条  連帯債務者ノ一人カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルトキハ他ノ債務者ニ対シ其各自ノ負担部分ニ付キ求償権ヲ有ス  
2 前項の規定による求償は、弁済その他免責があった日以後の法定利息及び避けることができなかった費用その他の損害の賠償を包含する。 2 前項ノ求償ハ弁済其他免責アリタル日以後ノ法定利息及ヒ避クルコトヲ得サリシ費用其他ノ損害ノ賠償ヲ包含ス  
(通知を怠った連帯債務者の求償の制限)    
第四百四十三条 連帯債務者の一人が債権者から履行の請求を受けたことを他の連帯債務者に通知しないで弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得た場合において、他の連帯債務者は、債権者に対抗することができる事由を有していたときは、その負担部分について、その事由をもってその免責を得た連帯債務者に対抗することができる。この場合において、相殺をもってその免責を得た連帯債務者に対抗したときは、過失のある連帯債務者は、債権者に対し、相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 第四百四十三条  連帯債務者ノ一人カ債権者ヨリ請求ヲ受ケタルコトヲ他ノ債務者ニ通知セスシテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タル場合ニ於テ他ノ債務者カ債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘキ事由ヲ有セシトキハ其負担部分ニ付キ之ヲ以テ其債務者ニ対抗スルコトヲ得但相殺ヲ以テ之ニ対抗シタルトキハ過失アル債務者ハ債権者ニ対シ相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得  
2 連帯債務者の一人が弁済をし、その他自己の財産をもって共同の免責を得たことを他の連帯債務者に通知することを怠ったため、他の連帯債務者が善意で弁済をし、その他有償の行為をもって免責を得たときは、その免責を得た連帯債務者は、自己の弁済その他免責のためにした行為を有効であったものとみなすことができる。 2 連帯債務者ノ一人カ弁済其他自己ノ出捐ヲ以テ共同ノ免責ヲ得タルコトヲ他ノ債務者ニ通知スルコトヲ怠リタルニ因リ他ノ債務者カ善意ニテ債権者ニ弁済ヲ為シ其他有償ニ免責ヲ得タルトキハ其債務者ハ自己ノ弁済其他免責ノ行為ヲ有効ナリシモノト看做スコトヲ得  
(償還をする資力のない者の負担部分の分担)    
第四百四十四条 連帯債務者の中に償還をする資力のない者があるときは、その償還をすることができない部分は、求償者及び他の資力のある者の間で、各自の負担部分に応じて分割して負担する。ただし、求償者に過失があるときは、他の連帯債務者に対して分担を請求することができない。 第四百四十四条  連帯債務者中ニ償還ヲ為ス資力ナキ者アルトキハ其償還スルコト能ハサル部分ハ求償者及ヒ他ノ資力アル者ノ間ニ其各自ノ負担部分ニ応シテ之ヲ分割ス但求償者ニ過失アルトキハ他ノ債務者ニ対シテ分担ヲ請求スルコトヲ得ス  
(連帯の免除と弁済をする資力のない者の負担部分の分担)    
第四百四十五条 連帯債務者の一人が連帯の免除を得た場合において、他の連帯債務者の中に弁済をする資力のない者があるときは、債権者は、その資力のない者が弁済をすることができない部分のうち連帯の免除を得た者が負担すべき部分を負担する。 第四百四十五条  連帯債務者ノ一人カ連帯ノ免除ヲ得タル場合ニ於テ他ノ債務者中ニ弁済ノ資力ナキ者アルトキハ債権者ハ其無資力者カ弁済スルコト能ハサル部分ニ付キ連帯ノ免除ヲ得タル者カ負担スヘキ部分ヲ負担ス  
第四款 保証債務 第四款 保証債務  
第一目 総則    
(保証人の責任等)    
第四百四十六条 保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 第四百四十六条  保証人ハ主タル債務者カ其債務ヲ履行セサル場合ニ於テ其履行ヲ為ス責ニ任ス  
2 保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。    
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。    
(保証債務の範囲)    
第四百四十七条 保証債務は、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのものを包含する。 第四百四十七条  保証債務ハ主タル債務ニ関スル利息、違約金、損害賠償其他総テ其債務ニ従タルモノヲ包含ス  
2 保証人は、その保証債務についてのみ、違約金又は損害賠償の額を約定することができる。 2 保証人ハ其保証債務ニ付テノミ違約金又ハ損害賠償ノ額ヲ約定スルコトヲ得  
(保証人の負担が主たる債務より重い場合)    
第四百四十八条 保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。 第四百四十八条  保証人ノ負担カ債務ノ目的又ハ体様ニ付キ主タル債務ヨリ重キトキハ之ヲ主タル債務ノ限度ニ減縮ス  
(取り消すことができる債務の保証)    
第四百四十九条 行為能力の制限によって取り消すことができる債務を保証した者は、保証契約の時においてその取消しの原因を知っていたときは、主たる債務の不履行の場合又はその債務の取消しの場合においてこれと同一の目的を有する独立の債務を負担したものと推定する。 第四百四十九条  能力ノ制限ニ因リテ取消スコトヲ得ヘキ債務ヲ保証シタル者カ保証契約ノ当時其取消ノ原因ヲ知リタルトキハ主タル債務者ノ不履行又ハ其債務ノ取消ノ場合ニ付キ同一ノ目的ヲ有スル独立ノ債務ヲ負担シタルモノト推定ス  
(保証人の要件)    
第四百五十条 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない。 第四百五十条  債務者カ保証人ヲ立ツル義務ヲ負フ場合ニ於テハ其保証人ハ左ノ条件ヲ具備スル者タルコトヲ要ス  
一 行為能力者であること。 一  能力者タルコト  
二 弁済をする資力を有すること。 二  弁済ノ資力ヲ有スルコト  
2 保証人が前項第二号に掲げる要件を欠くに至ったときは、債権者は、同項各号に掲げる要件を具備する者をもってこれに代えることを請求することができる。 2 保証人カ前項第二号ノ条件ヲ欠クニ至リタルトキハ債権者ハ前項ノ条件ヲ具備スル者ヲ以テ之ニ代フルコトヲ請求スルコトヲ得  
3 前二項の規定は、債権者が保証人を指名した場合には、適用しない。 3 前二項ノ規定ハ債権者カ保証人ヲ指名シタル場合ニハ之ヲ適用セス  
(他の担保の供与)    
第四百五十一条 債務者は、前条第一項各号に掲げる要件を具備する保証人を立てることができないときは、他の担保を供してこれに代えることができる。 第四百五十一条  債務者カ前条ノ条件ヲ具備スル保証人ヲ立ツルコト能ハサルトキハ他ノ担保ヲ供シテ之ニ代フルコトヲ得  
(催告の抗弁)    
第四百五十二条 債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない。 第四百五十二条  債権者カ保証人ニ債務ノ履行ヲ請求シタルトキハ保証人ハ先ツ主タル債務者ニ催告ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得但主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ又ハ其行方カ知レサルトキハ此限ニ在ラス  
(検索の抗弁)    
第四百五十三条 債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない。 第四百五十三条  債権者カ前条ノ規定ニ従ヒ主タル債務者ニ催告ヲ為シタル後ト雖モ保証人カ主タル債務者ニ弁済ノ資力アリテ且執行ノ容易ナルコトヲ証明シタルトキハ債権者ハ先ツ主タル債務者ノ財産ニ付キ執行ヲ為スコトヲ要ス  
(連帯保証の場合の特則)    
第四百五十四条 保証人は、主たる債務者と連帯して債務を負担したときは、前二条の権利を有しない。 第四百五十四条  保証人カ主タル債務者ト連帯シテ債務ヲ負担シタルトキハ前二条ニ定メタル権利ヲ有セス  
(催告の抗弁及び検索の抗弁の効果)    
第四百五十五条 第四百五十二条又は第四百五十三条の規定により保証人の請求又は証明があったにもかかわらず、債権者が催告又は執行をすることを怠ったために主たる債務者から全部の弁済を得られなかったときは、保証人は、債権者が直ちに催告又は執行をすれば弁済を得ることができた限度において、その義務を免れる。 第四百五十五条  第四百五十二条及ヒ第四百五十三条ノ規定ニ依リ保証人ノ請求アリタルニ拘ハラス債権者カ催告又ハ執行ヲ為スコトヲ怠リ其後主タル債務者ヨリ全部ノ弁済ヲ得サルトキハ保証人ハ債権者カ直チニ催告又ハ執行ヲ為セハ弁済ヲ得ヘカリシ限度ニ於テ其義務ヲ免ル  
(数人の保証人がある場合)    
第四百五十六条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。 第四百五十六条  数人ノ保証人アル場合ニ於テハ其保証人カ各別ノ行為ヲ以テ債務ヲ負担シタルトキト雖モ第四百二十七条ノ規定ヲ適用ス  
(主たる債務者について生じた事由の効力)    
第四百五十七条 主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。 第四百五十七条  主タル債務者ニ対スル履行ノ請求其他時効ノ中断ハ保証人ニ対シテモ其効力ヲ生ス  
2 保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。 2 保証人ハ主タル債務者ノ債権ニ依リ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得  
(連帯保証人について生じた事由の効力)    
第四百五十八条 第四百三十四条から第四百四十条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。 第四百五十八条  主タル債務者カ保証人ト連帯シテ債務ヲ負担スル場合ニ於テハ第四百三十四条乃至第四百四十条ノ規定ヲ適用ス  
(委託を受けた保証人の求償権)    
第四百五十九条 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、過失なく債権者に弁済をすべき旨の裁判の言渡しを受け、又は主たる債務者に代わって弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、その保証人は、主たる債務者に対して求償権を有する。 第四百五十九条  保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ過失ナクシテ債権者ニ弁済スヘキ裁判言渡ヲ受ケ又ハ主タル債務者ニ代ハリテ弁済ヲ為シ其他自己ノ出捐ヲ以テ債務ヲ消滅セシムヘキ行為ヲ為シタルトキハ其保証人ハ主タル債務者ニ対シテ求償権ヲ有ス  
2 第四百四十二条第二項の規定は、前項の場合について準用する。 2 第四百四十二条第二項ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(委託を受けた保証人の事前の求償権)    
第四百六十条 保証人は、主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、次に掲げるときは、主たる債務者に対して、あらかじめ、求償権を行使することができる。 第四百六十条  保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタルトキハ其保証人ハ左ノ場合ニ於テ主タル債務者ニ対シテ予メ求償権ヲ行フコトヲ得  
一 主たる債務者が破産手続開始の決定を受け、かつ、債権者がその破産財団の配当に加入しないとき。 一  主タル債務者カ破産ノ宣告ヲ受ケ且債権者カ其財団ノ配当ニ加入セサルトキ  
二 債務が弁済期にあるとき。ただし、保証契約の後に債権者が主たる債務者に許与した期限は、保証人に対抗することができない。 二  債務カ弁済期ニ在ルトキ但保証契約ノ後債権者カ主タル債務者ニ許与シタル期限ハ之ヲ以テ保証人ニ対抗スルコトヲ得ス  
三 債務の弁済期が不確定で、かつ、その最長期をも確定することができない場合において、保証契約の後十年を経過したとき。 三  債務ノ弁済期カ不確定ニシテ且其最長期ヲモ確定スルコト能ハサル場合ニ於テ保証契約ノ後十年ヲ経過シタルトキ  
(主たる債務者が保証人に対して償還をする場合)    
第四百六十一条 前二条の規定により主たる債務者が保証人に対して償還をする場合において、債権者が全部の弁済を受けない間は、主たる債務者は、保証人に担保を供させ、又は保証人に対して自己に免責を得させることを請求することができる。 第四百六十一条  前二条ノ規定ニ依リ主タル債務者カ保証人ニ対シテ賠償ヲ為ス場合ニ於テ債権者カ全部ノ弁済ヲ受ケサル間ハ主タル債務者ハ保証人ヲシテ担保ヲ供セシメ又ハ之ニ対シテ自己ニ免責ヲ得セシムヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項に規定する場合において、主たる債務者は、供託をし、担保を供し、又は保証人に免責を得させて、その償還の義務を免れることができる。 2 右ノ場合ニ於テ主タル債務者ハ供託ヲ為シ、担保ヲ供シ又ハ保証人ニ免責ヲ得セシメテ其賠償ノ義務ヲ免ルルコトヲ得  
(委託を受けない保証人の求償権)    
第四百六十二条 主たる債務者の委託を受けないで保証をした者が弁済をし、その他自己の財産をもって主たる債務者にその債務を免れさせたときは、主たる債務者は、その当時利益を受けた限度において償還をしなければならない。 第四百六十二条  主タル債務者ノ委託ヲ受ケスシテ保証ヲ為シタル者カ債務ヲ弁済シ其他自己ノ出捐ヲ以テ主タル債務者ニ其債務ヲ免レシメタルトキハ主タル債務者ハ其当時利益ヲ受ケタル限度ニ於テ賠償ヲ為スコトヲ要ス  
2 主たる債務者の意思に反して保証をした者は、主たる債務者が現に利益を受けている限度においてのみ求償権を有する。この場合において、主たる債務者が求償の日以前に相殺の原因を有していたことを主張するときは、保証人は、債権者に対し、その相殺によって消滅すべきであった債務の履行を請求することができる。 2 主タル債務者ノ意思ニ反シテ保証ヲ為シタル者ハ主タル債務者カ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ求償権ヲ有ス但主タル債務者カ求償ノ日以前ニ相殺ノ原因ヲ有セシコトヲ主張スルトキハ保証人ハ債権者ニ対シ其相殺ニ因リテ消滅スヘカリシ債務ノ履行ヲ請求スルコトヲ得  
(通知を怠った保証人の求償の制限)    
第四百六十三条 第四百四十三条の規定は、保証人について準用する。 第四百六十三条  第四百四十三条ノ規定ハ保証人ニ之ヲ準用ス  
2 保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、善意で弁済をし、その他自己の財産をもって債務を消滅させるべき行為をしたときは、第四百四十三条の規定は、主たる債務者についても準用する。 2 保証人カ主タル債務者ノ委託ヲ受ケテ保証ヲ為シタル場合ニ於テ善意ニテ弁済其他免責ノ為メニスル出捐ヲ為シタルトキハ第四百四十三条ノ規定ハ主タル債務者ニモ亦之ヲ準用ス  
(連帯債務又は不可分債務の保証人の求償権)    
第四百六十四条 連帯債務者又は不可分債務者の一人のために保証をした者は、他の債務者に対し、その負担部分のみについて求償権を有する。 第四百六十四条  連帯債務者又ハ不可分債務者ノ一人ノ為メニ保証ヲ為シタル者ハ他ノ債務者ニ対シテ其負担部分ノミニ付キ求償権ヲ有ス  
(共同保証人間の求償権)    
第四百六十五条 第四百四十二条から第四百四十四条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 第四百六十五条  数人ノ保証人アル場合ニ於テ主タル債務カ不可分ナル為メ又ハ各保証人カ全額ヲ弁済スヘキ特約アル為メ一人ノ保証人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百四十二条乃至第四百四十四条ノ規定ヲ準用ス  
2 第四百六十二条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 2 前項ノ場合ニ非スシテ互ニ連帯セサル保証人ノ一人カ全額其他自己ノ負担部分ヲ超ユル額ヲ弁済シタルトキハ第四百六十二条ノ規定ヲ準用ス  
第二目 貸金等根保証契約    
(貸金等根保証契約の保証人の責任等)    
第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であってその債務の範囲に金銭の貸渡し又は手形の割引を受けることによって負担する債務(以下「貸金等債務」という。)が含まれるもの(保証人が法人であるものを除く。以下「貸金等根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たるすべてのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。    
2 貸金等根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。    
3 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における第一項に規定する極度額の定めについて準用する。    
(貸金等根保証契約の元本確定期日)    
第四百六十五条の三 貸金等根保証契約において主たる債務の元本の確定すべき期日(以下「元本確定期日」という。)の定めがある場合において、その元本確定期日がその貸金等根保証契約の締結の日から五年を経過する日より後の日と定められているときは、その元本確定期日の定めは、その効力を生じない。    
2 貸金等根保証契約において元本確定期日の定めがない場合(前項の規定により元本確定期日の定めがその効力を生じない場合を含む。)には、その元本確定期日は、その貸金等根保証契約の締結の日から三年を経過する日とする。    
3 貸金等根保証契約における元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日がその変更をした日から五年を経過する日より後の日となるときは、その元本確定期日の変更は、その効力を生じない。ただし、元本確定期日の前二箇月以内に元本確定期日の変更をする場合において、変更後の元本確定期日が変更前の元本確定期日から五年以内の日となるときは、この限りでない。    
4 第四百四十六条第二項及び第三項の規定は、貸金等根保証契約における元本確定期日の定め及びその変更(その貸金等根保証契約の締結の日から三年以内の日を元本確定期日とする旨の定め及び元本確定期日より前の日を変更後の元本確定期日とする変更を除く。)について準用する。    
(貸金等根保証契約の元本の確定事由)    
第四百六十五条の四 次に掲げる場合には、貸金等根保証契約における主たる債務の元本は、確定する。    
一 債権者が、主たる債務者又は保証人の財産について、金銭の支払を目的とする債権についての強制執行又は担保権の実行を申し立てたとき。ただし、強制執行又は担保権の実行の手続の開始があったときに限る。    
二 主たる債務者又は保証人が破産手続開始の決定を受けたとき。    
三 主たる債務者又は保証人が死亡したとき。    
(保証人が法人である貸金等債務の根保証契約の求償権)    
第四百六十五条の五 保証人が法人である根保証契約であってその主たる債務の範囲に貸金等債務が含まれるものにおいて、第四百六十五条の二第一項に規定する極度額の定めがないとき、元本確定期日の定めがないとき、又は元本確定期日の定め若しくはその変更が第四百六十五条の三第一項若しくは第三項の規定を適用するとすればその効力を生じないものであるときは、その根保証契約の保証人の主たる債務者に対する求償権についての保証契約(保証人が法人であるものを除く。)は、その効力を生じない。    
第四節 債権の譲渡 第四節 債権ノ譲渡  
(債権の譲渡性)    
第四百六十六条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。 第四百六十六条  債権ハ之ヲ譲渡スコトヲ得但其性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス  
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 2 前項ノ規定ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但其意思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(指名債権の譲渡の対抗要件)    
第四百六十七条 指名債権の譲渡は、譲渡人が債務者に通知をし、又は債務者が承諾をしなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 第四百六十七条  指名債権ノ譲渡ハ譲渡人カ之ヲ債務者ニ通知シ又ハ債務者カ之ヲ承諾スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
2 前項の通知又は承諾は、確定日付のある証書によってしなければ、債務者以外の第三者に対抗することができない。 2 前項ノ通知又ハ承諾ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ債務者以外ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(指名債権の譲渡における債務者の抗弁)    
第四百六十八条 債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。 第四百六十八条  債務者カ異議ヲ留メスシテ前条ノ承諾ヲ為シタルトキハ譲渡人ニ対抗スルコトヲ得ヘカリシ事由アルモ之ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス但債務者カ其債務ヲ消滅セシムル為メ譲渡人ニ払渡シタルモノアルトキハ之ヲ取返シ又譲渡人ニ対シテ負担シタル債務アルトキハ之ヲ成立セサルモノト看做スコトヲ妨ケス  
2 譲渡人が譲渡の通知をしたにとどまるときは、債務者は、その通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた事由をもって譲受人に対抗することができる。 2 譲渡人カ譲渡ノ通知ヲ為シタルニ止マルトキハ債務者ハ其通知ヲ受クルマテニ譲渡人ニ対シテ生シタル事由ヲ以テ譲受人ニ対抗スルコトヲ得  
(指図債権の譲渡の対抗要件)    
第四百六十九条 指図債権の譲渡は、その証書に譲渡の裏書をして譲受人に交付しなければ、債務者その他の第三者に対抗することができない。 第四百六十九条  指図債権ノ譲渡ハ其証書ニ譲渡ノ裏書ヲ為シテ之ヲ譲受人ニ交付スルニ非サレハ之ヲ以テ債務者其他ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(指図債権の債務者の調査の権利等)    
第四百七十条 指図債権の債務者は、その証書の所持人並びにその署名及び押印の真偽を調査する権利を有するが、その義務を負わない。ただし、債務者に悪意又は重大な過失があるときは、その弁済は、無効とする。 第四百七十条  指図債権ノ債務者ハ其証書ノ所持人及ヒ其署名、捺印ノ真偽ヲ調査スル権利ヲ有スルモ其義務ヲ負フコトナシ但債務者ニ悪意又ハ重大ナル過失アルトキハ其弁済ハ無効トス  
(記名式所持人払債権の債務者の調査の権利等)    
第四百七十一条 前条の規定は、債権に関する証書に債権者を指名する記載がされているが、その証書の所持人に弁済をすべき旨が付記されている場合について準用する。 第四百七十一条  前条ノ規定ハ証書ニ債権者ヲ指名シタルモ其証書ノ所持人ニ弁済スヘキ旨ヲ附記シタル場合ニ之ヲ準用ス  
(指図債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)    
第四百七十二条 指図債権の債務者は、その証書に記載した事項及びその証書の性質から当然に生ずる結果を除き、その指図債権の譲渡前の債権者に対抗することができた事由をもって善意の譲受人に対抗することができない。 第四百七十二条  指図債権ノ債務者ハ其証書ニ記載シタル事項及ヒ其証書ノ性質ヨリ当然生スル結果ヲ除ク外原債権者ニ対抗スルコトヲ得ヘカリシ事由ヲ以テ善意ノ譲受人ニ対抗スルコトヲ得ス  
(無記名債権の譲渡における債務者の抗弁の制限)    
第四百七十三条 前条の規定は、無記名債権について準用する。 第四百七十三条  前条ノ規定ハ無記名債権ニ之ヲ準用ス  
第五節 債権の消滅 第五節 債権ノ消滅  
第一款 弁済 第一款 弁済  
第一目 総則    
(第三者の弁済)    
第四百七十四条 債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 第四百七十四条  債務ノ弁済ハ第三者之ヲ為スコトヲ得但其債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキ又ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス  
2 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。 2 利害ノ関係ヲ有セサル第三者ハ債務者ノ意思ニ反シテ弁済ヲ為スコトヲ得ス  
(弁済として引き渡した物の取戻し)    
第四百七十五条 弁済をした者が弁済として他人の物を引き渡したときは、その弁済をした者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。 第四百七十五条  弁済者カ他人ノ物ヲ引渡シタルトキハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ其物ヲ取戻スコトヲ得ス  
第四百七十六条 譲渡につき行為能力の制限を受けた所有者が弁済として物の引渡しをした場合において、その弁済を取り消したときは、その所有者は、更に有効な弁済をしなければ、その物を取り戻すことができない。 第四百七十六条  譲渡ノ能力ナキ所有者カ弁済トシテ物ノ引渡ヲ為シタル場合ニ於テ其弁済ヲ取消シタルトキハ其所有者ハ更ニ有効ナル弁済ヲ為スニ非サレハ其物ヲ取戻スコトヲ得ス  
(弁済として引き渡した物の消費又は譲渡がされた場合の弁済の効力等)    
第四百七十七条 前二条の場合において、債権者が弁済として受領した物を善意で消費し、又は譲り渡したときは、その弁済は、有効とする。この場合において、債権者が第三者から賠償の請求を受けたときは、弁済をした者に対して求償をすることを妨げない。 第四百七十七条  前二条ノ場合ニ於テ債権者カ弁済トシテ受ケタル物ヲ善意ニテ消費シ又ハ譲渡シタルトキハ其弁済ハ有効トス但債権者カ第三者ヨリ賠償ノ請求ヲ受ケタルトキハ弁済者ニ対シテ求償ヲ為スコトヲ妨ケス  
(債権の準占有者に対する弁済)    
第四百七十八条 債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。 第四百七十八条  債権ノ準占有者ニ為シタル弁済ハ弁済者ノ善意ナリシトキニ限リ其効力ヲ有ス 債権の準占有者に対する弁済は,弁済者が善意であるのみならず無過失である場合に限り,有効である旨を明らかにしている。
(受領する権限のない者に対する弁済)  
第四百七十九条 前条の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。 第四百七十九条  前条ノ場合ヲ除ク外弁済受領ノ権限ヲ有セサル者ニ為シタル弁済ハ債権者カ之ニ因リテ利益ヲ受ケタル限度ニ於テノミ其効力ヲ有ス  
(受取証書の持参人に対する弁済)    
第四百八十条 受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。 第四百八十条  受取証書ノ持参人ハ弁済受領ノ権限アルモノト看做ス但弁済者カ其権限ナキコトヲ知リタルトキ又ハ過失ニ因リテ之ヲ知ラサリシトキハ此限ニ在ラス  
(支払の差止めを受けた第三債務者の弁済)    
第四百八十一条 支払の差止めを受けた第三債務者が自己の債権者に弁済をしたときは、差押債権者は、その受けた損害の限度において更に弁済をすべき旨を第三債務者に請求することができる。 第四百八十一条  支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者カ自己ノ債権者ニ弁済ヲ為シタルトキハ差押債権者ハ其受ケタル損害ノ限度ニ於テ更ニ弁済ヲ為スヘキ旨ヲ第三債務者ニ請求スルコトヲ得  
2 前項の規定は、第三債務者からその債権者に対する求償権の行使を妨げない。 2 前項ノ規定ハ第三債務者ヨリ其債権者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス  
(代物弁済)    
第四百八十二条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。 第四百八十二条  債務者カ債権者ノ承諾ヲ以テ其負担シタル給付ニ代ヘテ他ノ給付ヲ為シタルトキハ其給付ハ弁済ト同一ノ効力ヲ有ス  
(特定物の現状による引渡し)    
第四百八十三条 債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。 第四百八十三条  債権ノ目的カ特定物ノ引渡ナルトキハ弁済者ハ其引渡ヲ為スヘキ時ノ現状ニテ其物ヲ引渡スコトヲ要ス  
(弁済の場所)    
第四百八十四条 弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。 第四百八十四条  弁済ヲ為スヘキ場所ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ特定物ノ引渡ハ債権発生ノ当時其物ノ存在セシ場所ニ於テ之ヲ為シ其他ノ弁済ハ債権者ノ現時ノ住所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス  
(弁済の費用)    
第四百八十五条 弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。 第四百八十五条  弁済ノ費用ニ付キ別段ノ意思表示ナキトキハ其費用ハ債務者之ヲ負担ス但債権者カ住所ノ移転其他ノ行為ニ因リテ弁済ノ費用ヲ増加シタルトキハ其増加額ハ債権者之ヲ負担ス  
(受取証書の交付請求)    
第四百八十六条 弁済をした者は、弁済を受領した者に対して受取証書の交付を請求することができる。 第四百八十六条  弁済者ハ弁済受領者ニ対シテ受取証書ノ交付ヲ請求スルコトヲ得  
(債権証書の返還請求)    
第四百八十七条 債権に関する証書がある場合において、弁済をした者が全部の弁済をしたときは、その証書の返還を請求することができる。 第四百八十七条  債権ノ証書アル場合ニ於テ弁済者カ全部ノ弁済ヲ為シタルトキハ其証書ノ返還ヲ請求スルコトヲ得  
(弁済の充当の指定)    
第四百八十八条 債務者が同一の債権者に対して同種の給付を目的とする数個の債務を負担する場合において、弁済として提供した給付がすべての債務を消滅させるのに足りないときは、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。 第四百八十八条  債務者カ同一ノ債権者ニ対シテ同種ノ目的ヲ有スル数個ノ債務ヲ負担スル場合ニ於テ弁済トシテ提供シタル給付カ総債務ヲ消滅セシムルニ足ラサルトキハ弁済者ハ給付ノ時ニ於テ其弁済ヲ充当スヘキ債務ヲ指定スルコトヲ得  
2 弁済をする者が前項の規定による指定をしないときは、弁済を受領する者は、その受領の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができる。ただし、弁済をする者がその充当に対して直ちに異議を述べたときは、この限りでない。 2 弁済者カ前項ノ指定ヲ為ササルトキハ弁済受領者ハ其受領ノ時ニ於テ其弁済ノ充当ヲ為スコトヲ得但弁済者カ其充当ニ対シテ直チニ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス  
3 前二項の場合における弁済の充当の指定は、相手方に対する意思表示によってする。 3 前二項ノ場合ニ於テ弁済ノ充当ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス  
(法定充当)    
第四百八十九条 弁済をする者及び弁済を受領する者がいずれも前条の規定による弁済の充当の指定をしないときは、次の各号の定めるところに従い、その弁済を充当する。 第四百八十九条  当事者カ弁済ノ充当ヲ為ササルトキハ左ノ規定ニ従ヒ其弁済ヲ充当ス  
一 債務の中に弁済期にあるものと弁済期にないものとがあるときは、弁済期にあるものに先に充当する。 一  総債務中弁済期ニ在ルモノト弁済期ニ在ラサルモノトアルトキハ弁済期ニ在ルモノヲ先ニス  
二 すべての債務が弁済期にあるとき、又は弁済期にないときは、債務者のために弁済の利益が多いものに先に充当する。 二  総債務カ弁済期ニ在ルトキ又ハ弁済期ニ在ラサルトキハ債務者ノ為メニ弁済ノ利益多キモノヲ先ニス  
三 債務者のために弁済の利益が相等しいときは、弁済期が先に到来したもの又は先に到来すべきものに先に充当する。 三  債務者ノ為メニ弁済ノ利益相同シキトキハ弁済期ノ先ツ至リタルモノ又ハ先ツ至ルヘキモノヲ先ニス  
四 前二号に掲げる事項が相等しい債務の弁済は、各債務の額に応じて充当する。 四  前二号ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ債務ノ弁済ハ各債務ノ額ニ応シテ之ヲ充当ス  
(数個の給付をすべき場合の充当)    
第四百九十条 一個の債務の弁済として数個の給付をすべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、前二条の規定を準用する。 第四百九十条  一個ノ債務ノ弁済トシテ数個ノ給付ヲ為スヘキ場合ニ於テ弁済者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ前二条ノ規定ヲ準用ス  
(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)    
第四百九十一条 債務者が一個又は数個の債務について元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、弁済をする者がその債務の全部を消滅させるのに足りない給付をしたときは、これを順次に費用、利息及び元本に充当しなければならない。 第四百九十一条  債務者カ一個又ハ数個ノ債務ニ付キ元本ノ外利息及ヒ費用ヲ払フヘキ場合ニ於テ弁済者カ其債務ノ全部ヲ消滅セシムルニ足ラサル給付ヲ為シタルトキハ之ヲ以テ順次ニ費用、利息及ヒ元本ニ充当スルコトヲ要ス  
2 第四百八十九条の規定は、前項の場合について準用する。 2 第四百八十九条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(弁済の提供の効果)    
第四百九十二条 債務者は、弁済の提供の時から、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れる。 第四百九十二条  弁済ノ提供ハ其提供ノ時ヨリ不履行ニ因リテ生スヘキ一切ノ責任ヲ免レシム  
(弁済の提供の方法)    
第四百九十三条 弁済の提供は、債務の本旨に従って現実にしなければならない。ただし、債権者があらかじめその受領を拒み、又は債務の履行について債権者の行為を要するときは、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすれば足りる。 第四百九十三条  弁済ノ提供ハ債務ノ本旨ニ従ヒテ現実ニ之ヲ為スコトヲ要ス但債権者カ予メ其受領ヲ拒ミ又ハ債務ノ履行ニ付キ債権者ノ行為ヲ要スルトキハ弁済ノ準備ヲ為シタルコトヲ通知シテ其受領ヲ催告スルヲ以テ足ル  
第二目 弁済の目的物の供託    
(供託)    
第四百九十四条 債権者が弁済の受領を拒み、又はこれを受領することができないときは、弁済をすることができる者(以下この目において「弁済者」という。)は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができる。弁済者が過失なく債権者を確知することができないときも、同様とする。 第四百九十四条  債権者カ弁済ノ受領ヲ拒ミ又ハ之ヲ受領スルコト能ハサルトキハ弁済者ハ債権者ノ為メニ弁済ノ目的物ヲ供託シテ其債務ヲ免ルルコトヲ得弁済者ノ過失ナクシテ債権者ヲ確知スルコト能ハサルトキ亦同シ  
(供託の方法)    
第四百九十五条 前条の規定による供託は、債務の履行地の供託所にしなければならない。 第四百九十五条  供託ハ債務履行地ノ供託所ニ之ヲ為スコトヲ要ス  
2 供託所について法令に特別の定めがない場合には、裁判所は、弁済者の請求により、供託所の指定及び供託物の保管者の選任をしなければならない。 2 供託所ニ付キ法令ニ別段ノ定ナキ場合ニ於テハ裁判所ハ弁済者ノ請求ニ因リ供託所ノ指定及ヒ供託物保管者ノ選任ヲ為スコトヲ要ス  
3 前条の規定により供託をした者は、遅滞なく、債権者に供託の通知をしなければならない。 3 供託者ハ遅滞ナク債権者ニ供託ノ通知ヲ為スコトヲ要ス  
(供託物の取戻し)    
第四百九十六条 債権者が供託を受諾せず、又は供託を有効と宣告した判決が確定しない間は、弁済者は、供託物を取り戻すことができる。この場合においては、供託をしなかったものとみなす。 第四百九十六条  債権者カ供託ヲ受諾セス又ハ供託ヲ有効ト宣告シタル判決カ確定セサル間ハ弁済者ハ供託物ヲ取戻スコトヲ得此場合ニ於テハ供託ヲ為ササリシモノト看做ス  
2 前項の規定は、供託によって質権又は抵当権が消滅した場合には、適用しない。 2 前項ノ規定ハ供託ニ因リテ質権又ハ抵当権カ消滅シタル場合ニハ之ヲ適用セス  
(供託に適しない物等)    
第四百九十七条 弁済の目的物が供託に適しないとき、又はその物について滅失若しくは損傷のおそれがあるときは、弁済者は、裁判所の許可を得て、これを競売に付し、その代金を供託することができる。その物の保存について過分の費用を要するときも、同様とする。 第四百九十七条  弁済ノ目的物カ供託ニ適セス又ハ其物ニ付キ滅失若クハ毀損ノ虞アルトキハ弁済者ハ裁判所ノ許可ヲ得テ之ヲ競売シ其代価ヲ供託スルコトヲ得其物ノ保存ニ付キ過分ノ費用ヲ要スルトキ亦同シ  
(供託物の受領の要件)    
第四百九十八条 債務者が債権者の給付に対して弁済をすべき場合には、債権者は、その給付をしなければ、供託物を受け取ることができない。 第四百九十八条  債務者カ債権者ノ給付ニ対シテ弁済ヲ為スヘキ場合ニ於テハ債権者ハ其給付ヲ為スニ非サレハ供託物ヲ受取ルコトヲ得ス  
第三目 弁済による代位    
(任意代位)    
第四百九十九条 債務者のために弁済をした者は、その弁済と同時に債権者の承諾を得て、債権者に代位することができる。 第四百九十九条  債務者ノ為メニ弁済ヲ為シタル者ハ其弁済ト同時ニ債権者ノ承諾ヲ得テ之ニ代位スルコトヲ得  
2 第四百六十七条の規定は、前項の場合について準用する。 2 第四百六十七条ノ規定ハ前項ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(法定代位)    
第五百条 弁済をするについて正当な利益を有する者は、弁済によって当然に債権者に代位する。 第五百条  弁済ヲ為スニ付キ正当ノ利益ヲ有スル者ハ弁済ニ因リテ当然債権者ニ代位ス  
(弁済による代位の効果)    
第五百一条 前二条の規定により債権者に代位した者は、自己の権利に基づいて求償をすることができる範囲内において、債権の効力及び担保としてその債権者が有していた一切の権利を行使することができる。この場合においては、次の各号の定めるところに従わなければならない。 第五百一条  前二条ノ規定ニ依リテ債権者ニ代位シタル者ハ自己ノ権利ニ基キ求償ヲ為スコトヲ得ヘキ範囲内ニ於テ債権ノ効力及ヒ担保トシテ其債権者カ有セシ一切ノ権利ヲ行フコトヲ得但左ノ規定ニ従フコトヲ要ス  
一 保証人は、あらかじめ先取特権、不動産質権又は抵当権の登記にその代位を付記しなければ、その先取特権、不動産質権又は抵当権の目的である不動産の第三取得者に対して債権者に代位することができない。 一  保証人ハ予メ先取特権、不動産質権又ハ抵当権ノ登記ニ其代位ヲ附記シタルニ非サレハ其先取特権、不動産質権又ハ抵当権ノ目的タル不動産ノ第三取得者ニ対シテ債権者ニ代位セス  
二 第三取得者は、保証人に対して債権者に代位しない。 二  第三取得者ハ保証人ニ対シテ債権者ニ代位セス  
三 第三取得者の一人は、各不動産の価格に応じて、他の第三取得者に対して債権者に代位する。 三  第三取得者ノ一人ハ各不動産ノ価格ニ応スルニ非サレハ他ノ第三取得者ニ対シテ債権者ニ代位セス  
四 物上保証人の一人は、各財産の価格に応じて、他の物上保証人に対して債権者に代位する。 四  前号ノ規定ハ自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者ノ間ニ之ヲ準用ス  
五 保証人と物上保証人との間においては、その数に応じて、債権者に代位する。ただし、物上保証人が数人あるときは、保証人の負担部分を除いた残額について、各財産の価格に応じて、債権者に代位する。 五  保証人ト自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者トノ間ニ於テハ其頭数ニ応スルニ非サレハ債権者ニ代位セス但自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者数人アルトキハ保証人ノ負担部分ヲ除キ其残額ニ付キ各財産ノ価格ニ応スルニ非サレハ之ニ対シテ代位ヲ為スコトヲ得ス  
六 前号の場合において、その財産が不動産であるときは、第一号の規定を準用する。 右ノ場合ニ於テ其財産カ不動産ナルトキハ第一号ノ規定ヲ準用ス  
(一部弁済による代位)    
第五百二条 債権の一部について代位弁済があったときは、代位者は、その弁済をした価額に応じて、債権者とともにその権利を行使する。 第五百二条  債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタルトキハ代位者ハ其弁済シタル価額ニ応シテ債権者ト共ニ其権利ヲ行フ  
2 前項の場合において、債務の不履行による契約の解除は、債権者のみがすることができる。この場合においては、代位者に対し、その弁済をした価額及びその利息を償還しなければならない。 2 前項ノ場合ニ於テ債務ノ不履行ニ因ル契約ノ解除ハ債権者ノミ之ヲ請求スルコトヲ得但代位者ニ其弁済シタル価額及ヒ其利息ヲ償還スルコトヲ要ス  
(債権者による債権証書の交付等)    
第五百三条 代位弁済によって全部の弁済を受けた債権者は、債権に関する証書及び自己の占有する担保物を代位者に交付しなければならない。 第五百三条  代位弁済ニ因リテ全部ノ弁済ヲ受ケタル債権者ハ債権ニ関スル証書及ヒ其占有ニ在ル担保物ヲ代位者ニ交付スルコトヲ要ス  
2 債権の一部について代位弁済があった場合には、債権者は、債権に関する証書にその代位を記入し、かつ、自己の占有する担保物の保存を代位者に監督させなければならない。 2 債権ノ一部ニ付キ代位弁済アリタル場合ニ於テハ債権者ハ債権証書ニ其代位ヲ記入シ且代位者ヲシテ其占有ニ在ル担保物ノ保存ヲ監督セシムルコトヲ要ス  
(債権者による担保の喪失等)    
第五百四条 第五百条の規定により代位をすることができる者がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位をすることができる者は、その喪失又は減少によって償還を受けることができなくなった限度において、その責任を免れる。 第五百四条  第五百条ノ規定ニ依リテ代位ヲ為スヘキ者アル場合ニ於テ債権者カ故意又ハ懈怠ニ因リテ其担保ヲ喪失又ハ減少シタルトキハ代位ヲ為スヘキ者ハ其喪失又ハ減少ニ因リ償還ヲ受クルコト能ハサルニ至リタル限度ニ於テ其責ヲ免ル  
第二款 相殺 第二款 相殺  
(相殺の要件等)    
第五百五条 二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 第五百五条  二人互ニ同種ノ目的ヲ有スル債務ヲ負担スル場合ニ於テ双方ノ債務カ弁済期ニ在ルトキハ各債務者ハ其対当額ニ付キ相殺ニ因リテ其債務ヲ免ルルコトヲ得但債務ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス  
2 前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。 2 前項ノ規定ハ当事者カ反対ノ意思ヲ表示シタル場合ニハ之ヲ適用セス但其意思表示ハ之ヲ以テ善意ノ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(相殺の方法及び効力)    
第五百六条 相殺は、当事者の一方から相手方に対する意思表示によってする。この場合において、その意思表示には、条件又は期限を付することができない。 第五百六条  相殺ハ当事者ノ一方ヨリ其相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス但其意思表示ニハ条件又ハ期限ヲ附スルコトヲ得ス  
2 前項の意思表示は、双方の債務が互いに相殺に適するようになった時にさかのぼってその効力を生ずる。 2 前項ノ意思表示ハ双方ノ債務カ互ニ相殺ヲ為スニ適シタル始ニ遡リテ其効力ヲ生ス  
(履行地の異なる債務の相殺)    
第五百七条 相殺は、双方の債務の履行地が異なるときであっても、することができる。この場合において、相殺をする当事者は、相手方に対し、これによって生じた損害を賠償しなければならない。 第五百七条  相殺ハ双方ノ債務ノ履行地カ異ナルトキト雖モ之ヲ為スコトヲ得但相殺ヲ為ス当事者ハ其相手方ニ対シ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スルコトヲ要ス  
(時効により消滅した債権を自働債権とする相殺)    
第五百八条 時効によって消滅した債権がその消滅以前に相殺に適するようになっていた場合には、その債権者は、相殺をすることができる。 第五百八条  時効ニ因リテ消滅シタル債権カ其消滅以前ニ相殺ニ適シタル場合ニ於テハ其債権者ハ相殺ヲ為スコトヲ得  
(不法行為により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)    
第五百九条 債務が不法行為によって生じたときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 第五百九条  債務カ不法行為ニ因リテ生シタルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(差押禁止債権を受働債権とする相殺の禁止)    
第五百十条 債権が差押えを禁じたものであるときは、その債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。 第五百十条  債権カ差押ヲ禁シタルモノナルトキハ其債務者ハ相殺ヲ以テ債権者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(支払の差止めを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止)    
第五百十一条 支払の差止めを受けた第三債務者は、その後に取得した債権による相殺をもって差押債権者に対抗することができない。 第五百十一条  支払ノ差止ヲ受ケタル第三債務者ハ其後ニ取得シタル債権ニ依リ相殺ヲ以テ差押債権者ニ対抗スルコトヲ得ス  
(相殺の充当)    
第五百十二条 第四百八十八条から第四百九十一条までの規定は、相殺について準用する。 第五百十二条  第四百八十八条乃至第四百九十一条ノ規定ハ相殺ニ之ヲ準用ス  
第三款 更改 第三款 更改  
(更改)    
第五百十三条 当事者が債務の要素を変更する契約をしたときは、その債務は、更改によって消滅する。 第五百十三条  当事者カ債務ノ要素ヲ変更スル契約ヲ為シタルトキハ其債務ハ更改ニ因リテ消滅ス 債務の履行に代えて為替手形を発行することは代物弁済であると解されていることから,これを更改とする第2項後段の規定を削除している。
2 条件付債務を無条件債務としたとき、無条件債務に条件を付したとき、又は債務の条件を変更したときは、いずれも債務の要素を変更したものとみなす。 2 条件附債務ヲ無条件債務トシ、無条件債務ニ条件ヲ附シ又ハ条件ヲ変更スルハ債務ノ要素ヲ変更スルモノト看做ス債務ノ履行ニ代ヘテ為替手形ヲ発行スル亦同シ  
(債務者の交替による更改)    
第五百十四条 債務者の交替による更改は、債権者と更改後に債務者となる者との契約によってすることができる。ただし、更改前の債務者の意思に反するときは、この限りでない。 第五百十四条  債務者ノ交替ニ因ル更改ハ債権者ト新債務者トノ契約ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但旧債務者ノ意思ニ反シテ之ヲ為スコトヲ得ス  
(債権者の交替による更改)    
第五百十五条 債権者の交替による更改は、確定日付のある証書によってしなければ、第三者に対抗することができない。 第五百十五条  債権者ノ交替ニ因ル更改ハ確定日附アル証書ヲ以テスルニ非サレハ之ヲ以テ第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
第五百十六条 第四百六十八条第一項の規定は、債権者の交替による更改について準用する。 第五百十六条  第四百六十八条第一項ノ規定ハ債権者ノ交替ニ因ル更改ニ之ヲ準用ス  
(更改前の債務が消滅しない場合)    
第五百十七条 更改によって生じた債務が、不法な原因のため又は当事者の知らない事由によって成立せず又は取り消されたときは、更改前の債務は、消滅しない。 第五百十七条  更改ニ因リテ生シタル債務カ不法ノ原因ノ為メ又ハ当事者ノ知ラサル事由ニ因リテ成立セス又ハ取消サレタルトキハ旧債務ハ消滅セス  
(更改後の債務への担保の移転)    
第五百十八条 更改の当事者は、更改前の債務の目的の限度において、その債務の担保として設定された質権又は抵当権を更改後の債務に移すことができる。ただし、第三者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。 第五百十八条  更改ノ当事者ハ旧債務ノ目的ノ限度ニ於テ其債務ノ担保ニ供シタル質権又ハ抵当権ヲ新債務ニ移スコトヲ得但第三者カ之ヲ供シタル場合ニ於テハ其承諾ヲ得ルコトヲ要ス  
第四款 免除 第四款 免除  
第五百十九条 債権者が債務者に対して債務を免除する意思を表示したときは、その債権は、消滅する。 第五百十九条  債権者カ債務者ニ対シテ債務ヲ免除スル意思ヲ表示シタルトキハ其債権ハ消滅ス  
第五款 混同 第五款 混同  
第五百二十条 債権及び債務が同一人に帰属したときは、その債権は、消滅する。ただし、その債権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。 第五百二十条  債権及ヒ債務カ同一人ニ帰シタルトキハ其債権ハ消滅ス但其債権カ第三者ノ権利ノ目的タルトキハ此限ニ在ラス  
第二章 契約 第二章 契約  
第一節 総則 第一節 総則  
第一款 契約の成立 第一款 契約ノ成立  
(承諾の期間の定めのある申込み)    
第五百二十一条 承諾の期間を定めてした契約の申込みは、撤回することができない。 第五百二十一条  承諾ノ期間ヲ定メテ為シタル契約ノ申込ハ之ヲ取消スコトヲ得ス  
2 申込者が前項の申込みに対して同項の期間内に承諾の通知を受けなかったときは、その申込みは、その効力を失う。 2 申込者カ前項ノ期間内ニ承諾ノ通知ヲ受ケサルトキハ申込ハ其効力ヲ失フ  
(承諾の通知の延着)    
第五百二十二条 前条第一項の申込みに対する承諾の通知が同項の期間の経過後に到達した場合であっても、通常の場合にはその期間内に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、申込者は、遅滞なく、相手方に対してその延着の通知を発しなければならない。ただし、その到達前に遅延の通知を発したときは、この限りでない。 第五百二十二条  承諾ノ通知カ前条ノ期間後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テハ其期間内ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ申込者ハ遅滞ナク相手方ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス但其到達前ニ遅延ノ通知ヲ発シタルトキハ此限ニ在ラス  
2 申込者が前項本文の延着の通知を怠ったときは、承諾の通知は、前条第一項の期間内に到達したものとみなす。 2 申込者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ承諾ノ通知ハ延著セサリシモノト看做ス  
(遅延した承諾の効力)    
第五百二十三条 申込者は、遅延した承諾を新たな申込みとみなすことができる。 第五百二十三条  遅延シタル承諾ハ申込者ニ於テ之ヲ新ナル申込ト看做スコトヲ得  
(承諾の期間の定めのない申込み)    
第五百二十四条 承諾の期間を定めないで隔地者に対してした申込みは、申込者が承諾の通知を受けるのに相当な期間を経過するまでは、撤回することができない。 第五百二十四条  承諾ノ期間ヲ定メスシテ隔地者ニ為シタル申込ハ申込者カ承諾ノ通知ヲ受クルニ相当ナル期間之ヲ取消スコトヲ得ス  
(申込者の死亡又は行為能力の喪失)    
第五百二十五条 第九十七条第二項の規定は、申込者が反対の意思を表示した場合又はその相手方が申込者の死亡若しくは行為能力の喪失の事実を知っていた場合には、適用しない。 第五百二十五条  第九十七条第二項ノ規定ハ申込者カ反対ノ意思ヲ表示シ又ハ其相手方カ死亡若クハ能力喪失ノ事実ヲ知リタル場合ニハ之ヲ適用セス  
(隔地者間の契約の成立時期)    
第五百二十六条 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。 第五百二十六条  隔地者間ノ契約ハ承諾ノ通知ヲ発シタル時ニ成立ス  
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。 2 申込者ノ意思表示又ハ取引上ノ慣習ニ依リ承諾ノ通知ヲ必要トセサル場合ニ於テハ契約ハ承諾ノ意思表示ト認ムヘキ事実アリタル時ニ成立ス  
(申込みの撤回の通知の延着)    
第五百二十七条 申込みの撤回の通知が承諾の通知を発した後に到達した場合であっても、通常の場合にはその前に到達すべき時に発送したものであることを知ることができるときは、承諾者は、遅滞なく、申込者に対してその延着の通知を発しなければならない。 第五百二十七条  申込ノ取消ノ通知カ承諾ノ通知ヲ発シタル後ニ到達シタルモ通常ノ場合ニ於テハ其前ニ到達スヘカリシ時ニ発送シタルモノナルコトヲ知リ得ヘキトキハ承諾者ハ遅滞ナク申込者ニ対シテ其延著ノ通知ヲ発スルコトヲ要ス  
2 承諾者が前項の延着の通知を怠ったときは、契約は、成立しなかったものとみなす。 2 承諾者カ前項ノ通知ヲ怠リタルトキハ契約ハ成立セサリシモノト看做ス  
(申込みに変更を加えた承諾)    
第五百二十八条 承諾者が、申込みに条件を付し、その他変更を加えてこれを承諾したときは、その申込みの拒絶とともに新たな申込みをしたものとみなす。 第五百二十八条  承諾者カ申込ニ条件ヲ附シ其他変更ヲ加ヘテ之ヲ承諾シタルトキハ其申込ノ拒絶ト共ニ新ナル申込ヲ為シタルモノト看做ス  
(懸賞広告)    
第五百二十九条 ある行為をした者に一定の報酬を与える旨を広告した者(以下この款において「懸賞広告者」という。)は、その行為をした者に対してその報酬を与える義務を負う。 第五百二十九条  或行為ヲ為シタル者ニ一定ノ報酬ヲ与フヘキ旨ヲ広告シタル者ハ其行為ヲ為シタル者ニ対シテ其報酬ヲ与フル義務ヲ負フ  
(懸賞広告の撤回)    
第五百三十条 前条の場合において、懸賞広告者は、その指定した行為を完了する者がない間は、前の広告と同一の方法によってその広告を撤回することができる。ただし、その広告中に撤回をしない旨を表示したときは、この限りでない。 第五百三十条  前条ノ場合ニ於テ広告者ハ其指定シタル行為ヲ完了スル者ナキ間ハ前ノ広告ト同一ノ方法ニ依リテ其広告ヲ取消スコトヲ得但其広告中ニ取消ヲ為ササル旨ヲ表示シタルトキハ此限ニ在ラス  
2 前項本文に規定する方法によって撤回をすることができない場合には、他の方法によって撤回をすることができる。この場合において、その撤回は、これを知った者に対してのみ、その効力を有する。 2 前項ニ定メタル方法ニ依リテ取消ヲ為スコト能ハサル場合ニ於テハ他ノ方法ニ依リテ之ヲ為スコトヲ得但其取消ハ之ヲ知リタル者ニ対シテノミ其効力ヲ有ス  
3 懸賞広告者がその指定した行為をする期間を定めたときは、その撤回をする権利を放棄したものと推定する。 3 広告者カ其指定シタル行為ヲ為スヘキ期間ヲ定メタルトキハ其取消権ヲ抛棄シタルモノト推定ス  
(懸賞広告の報酬を受ける権利)    
第五百三十一条 広告に定めた行為をした者が数人あるときは、最初にその行為をした者のみが報酬を受ける権利を有する。 第五百三十一条  広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アルトキハ最初ニ其行為ヲ為シタル者ノミ報酬ヲ受クル権利ヲ有ス  
2 数人が同時に前項の行為をした場合には、各自が等しい割合で報酬を受ける権利を有する。ただし、報酬がその性質上分割に適しないとき、又は広告において一人のみがこれを受けるものとしたときは、抽選でこれを受ける者を定める。 2 数人カ同時ニ右ノ行為ヲ為シタル場合ニ於テハ各平等ノ割合ヲ以テ報酬ヲ受クル権利ヲ有ス但報酬カ其性質上分割ニ不便ナルトキ又ハ広告ニ於テ一人ノミ之ヲ受クヘキモノトシタルトキハ抽籤ヲ以テ之ヲ受クヘキ者ヲ定ム  
3 前二項の規定は、広告中にこれと異なる意思を表示したときは、適用しない。 3 前二項ノ規定ハ広告中ニ之ニ異ナリタル意思ヲ表示シタルトキハ之ヲ適用セス  
(優等懸賞広告)    
第五百三十二条 広告に定めた行為をした者が数人ある場合において、その優等者のみに報酬を与えるべきときは、その広告は、応募の期間を定めたときに限り、その効力を有する。 第五百三十二条  広告ニ定メタル行為ヲ為シタル者数人アル場合ニ於テ其優等者ノミニ報酬ヲ与フヘキトキハ其広告ハ応募ノ期間ヲ定メタルトキニ限リ其効力ヲ有ス  
2 前項の場合において、応募者中いずれの者の行為が優等であるかは、広告中に定めた者が判定し、広告中に判定をする者を定めなかったときは懸賞広告者が判定する。 2 前項ノ場合ニ於テ応募者中何人ノ行為カ優等ナルカハ広告中ニ定メタル者之ヲ判定ス若シ広告中ニ判定者ヲ定メサリシトキハ広告者之ヲ判定ス  
3 応募者は、前項の判定に対して異議を述べることができない。 3 応募者ハ前項ノ判定ニ対シテ異議ヲ述フルコトヲ得ス  
4 前条第二項の規定は、数人の行為が同等と判定された場合について準用する。 4 数人ノ行為カ同等ト判定セラレタルトキハ前条第二項ノ規定ヲ準用ス  
第二款 契約の効力 第二款 契約ノ効力  
(同時履行の抗弁)    
第五百三十三条 双務契約の当事者の一方は、相手方がその債務の履行を提供するまでは、自己の債務の履行を拒むことができる。ただし、相手方の債務が弁済期にないときは、この限りでない。 第五百三十三条  双務契約当事者ノ一方ハ相手方カ其債務ノ履行ヲ提供スルマテハ自己ノ債務ノ履行ヲ拒ムコトヲ得但相手方ノ債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ此限ニ在ラス  
(債権者の危険負担)    
第五百三十四条 特定物に関する物権の設定又は移転を双務契約の目的とした場合において、その物が債務者の責めに帰することができない事由によって滅失し、又は損傷したときは、その滅失又は損傷は、債権者の負担に帰する。 第五百三十四条  特定物ニ関スル物権ノ設定又ハ移転ヲ以テ双務契約ノ目的ト為シタル場合ニ於テ其物カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ其滅失又ハ毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス  
2 不特定物に関する契約については、第四百一条第二項の規定によりその物が確定した時から、前項の規定を適用する。 2 不特定物ニ関スル契約ニ付テハ第四百一条第二項ノ規定ニ依リテ其物カ確定シタル時ヨリ前項ノ規定ヲ適用ス  
(停止条件付双務契約における危険負担)    
第五百三十五条 前条の規定は、停止条件付双務契約の目的物が条件の成否が未定である間に滅失した場合には、適用しない。 第五百三十五条  前条ノ規定ハ停止条件附双務契約ノ目的物カ条件ノ成否未定ノ間ニ於テ滅失シタル場合ニハ之ヲ適用セス  
2 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰することができない事由によって損傷したときは、その損傷は、債権者の負担に帰する。 2 物カ債務者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ毀損シタルトキハ其毀損ハ債権者ノ負担ニ帰ス  
3 停止条件付双務契約の目的物が債務者の責めに帰すべき事由によって損傷した場合において、条件が成就したときは、債権者は、その選択に従い、契約の履行の請求又は解除権の行使をすることができる。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。 3 物カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ毀損シタルトキハ債権者ハ条件成就ノ場合ニ於テ其選択ニ従ヒ契約ノ履行又ハ其解除ヲ請求スルコトヲ得但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
(債務者の危険負担等)    
第五百三十六条 前二条に規定する場合を除き、当事者双方の責めに帰することができない事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を有しない。 第五百三十六条  前二条ニ掲ケタル場合ヲ除ク外当事者双方ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リテ債務ヲ履行スルコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ有セス  
2 債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。 2 債権者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ債務者ハ反対給付ヲ受クル権利ヲ失ハス但自己ノ債務ヲ免レタルニ因リテ利益ヲ得タルトキハ之ヲ債権者ニ償還スルコトヲ要ス  
(第三者のためにする契約)    
第五百三十七条 契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有する。 第五百三十七条  契約ニ依リ当事者ノ一方カ第三者ニ対シテ或給付ヲ為スヘキコトヲ約シタルトキハ其第三者ハ債務者ニ対シテ直接ニ其給付ヲ請求スル権利ヲ有ス  
2 前項の場合において、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して同項の契約の利益を享受する意思を表示した時に発生する。 2 前項ノ場合ニ於テ第三者ノ権利ハ其第三者カ債務者ニ対シテ契約ノ利益ヲ享受スル意思ヲ表示シタル時ニ発生ス  
(第三者の権利の確定)    
第五百三十八条 前条の規定により第三者の権利が発生した後は、当事者は、これを変更し、又は消滅させることができない。 第五百三十八条  前条ノ規定ニ依リテ第三者ノ権利カ発生シタル後ハ当事者ハ之ヲ変更シ又ハ之ヲ消滅セシムルコトヲ得ス  
(債務者の抗弁)    
第五百三十九条 債務者は、第五百三十七条第一項の契約に基づく抗弁をもって、その契約の利益を受ける第三者に対抗することができる。 第五百三十九条  第五百三十七条ニ掲ケタル契約ニ基因スル抗弁ハ債務者之ヲ以テ其契約ノ利益ヲ受クヘキ第三者ニ対抗スルコトヲ得  
第三款 契約の解除 第三款 契約ノ解除  
(解除権の行使)    
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。 第五百四十条  契約又ハ法律ノ規定ニ依リ当事者ノ一方カ解除権ヲ有スルトキハ其解除ハ相手方ニ対スル意思表示ニ依リテ之ヲ為ス  
2 前項の意思表示は、撤回することができない。 2 前項ノ意思表示ハ之ヲ取消スコトヲ得ス  
(履行遅滞等による解除権)    
第五百四十一条 当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。 第五百四十一条  当事者ノ一方カ其債務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ相当ノ期間ヲ定メテ其履行ヲ催告シ若シ其期間内ニ履行ナキトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得 債務の不履行があった場合でも,それが債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは,契約の解除をすることができない旨を明らかにしている。
(定期行為の履行遅滞による解除権)    
第五百四十二条 契約の性質又は当事者の意思表示により、特定の日時又は一定の期間内に履行をしなければ契約をした目的を達することができない場合において、当事者の一方が履行をしないでその時期を経過したときは、相手方は、前条の催告をすることなく、直ちにその契約の解除をすることができる。 第五百四十二条  契約ノ性質又ハ当事者ノ意思表示ニ依リ一定ノ日時又ハ一定ノ期間内ニ履行ヲ為スニ非サレハ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ於テ当事者ノ一方カ履行ヲ為サスシテ其時期ヲ経過シタルトキハ相手方ハ前条ノ催告ヲ為サスシテ直チニ其契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(履行不能による解除権)    
第五百四十三条 履行の全部又は一部が不能となったときは、債権者は、契約の解除をすることができる。 第五百四十三条  履行ノ全部又ハ一部カ債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ不能ト為リタルトキハ債権者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
ただし、その債務の不履行が債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。    
(解除権の不可分性)    
第五百四十四条 当事者の一方が数人ある場合には、契約の解除は、その全員から又はその全員に対してのみ、することができる。 第五百四十四条  当事者ノ一方カ数人アル場合ニ於テハ契約ノ解除ハ其全員ヨリ又ハ其全員ニ対シテノミ之ヲ為スコトヲ得  
2 前項の場合において、解除権が当事者のうちの一人について消滅したときは、他の者についても消滅する。 2 前項ノ場合ニ於テ解除権カ当事者中ノ一人ニ付キ消滅シタルトキハ他ノ者ニ付テモ亦消滅ス  
(解除の効果)    
第五百四十五条 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。 第五百四十五条  当事者ノ一方カ其解除権ヲ行使シタルトキハ各当事者ハ其相手方ヲ原状ニ復セシムル義務ヲ負フ但第三者ノ権利ヲ害スルコトヲ得ス  
2 前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。 2 前項ノ場合ニ於テ返還スヘキ金銭ニハ其受領ノ時ヨリ利息ヲ附スルコトヲ要ス  
3 解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。 3 解除権ノ行使ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
(契約の解除と同時履行)    
第五百四十六条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。 第五百四十六条  第五百三十三条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(催告による解除権の消滅)    
第五百四十七条 解除権の行使について期間の定めがないときは、相手方は、解除権を有する者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に解除をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その期間内に解除の通知を受けないときは、解除権は、消滅する。 第五百四十七条  解除権ノ行使ニ付キ期間ノ定ナキトキハ相手方ハ解除権ヲ有スル者ニ対シ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ解除ヲ為スヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ催告スルコトヲ得若シ其期間内ニ解除ノ通知ヲ受ケサルトキハ解除権ハ消滅ス  
(解除権者の行為等による解除権の消滅)    
第五百四十八条 解除権を有する者が自己の行為若しくは過失によって契約の目的物を著しく損傷し、若しくは返還することができなくなったとき、又は加工若しくは改造によってこれを他の種類の物に変えたときは、解除権は、消滅する。 第五百四十八条  解除権ヲ有スル者カ自己ノ行為又ハ過失ニ因リテ著シク契約ノ目的物ヲ毀損シ若クハ之ヲ返還スルコト能ハサルニ至リタルトキ又ハ加工若クハ改造ニ因リテ之ヲ他ノ種類ノ物ニ変シタルトキハ解除権ハ消滅ス  
2 契約の目的物が解除権を有する者の行為又は過失によらないで滅失し、又は損傷したときは、解除権は、消滅しない。 2 契約ノ目的物カ解除権ヲ有スル者ノ行為又ハ過失ニ因ラスシテ滅失又ハ毀損シタルトキハ解除権ハ消滅セス  
第二節 贈与 第二節 贈与  
(贈与)    
第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。 第五百四十九条  贈与ハ当事者ノ一方カ自己ノ財産ヲ無償ニテ相手方ニ与フル意思ヲ表示シ相手方カ受諾ヲ為スニ因リテ其効力ヲ生ス  
(書面によらない贈与の撤回)    
第五百五十条 書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。 第五百五十条  書面ニ依ラサル贈与ハ各当事者之ヲ取消スコトヲ得但履行ノ終ハリタル部分ニ付テハ此限ニ在ラス  
(贈与者の担保責任)    
第五百五十一条 贈与者は、贈与の目的である物又は権利の瑕疵又は不存在について、その責任を負わない。ただし、贈与者がその瑕疵又は不存在を知りながら受贈者に告げなかったときは、この限りでない。 第五百五十一条  贈与者ハ贈与ノ目的タル物又ハ権利ノ瑕疵又ハ欠缺ニ付キ其責ニ任セス但贈与者カ其瑕疵又ハ欠缺ヲ知リテ之ヲ受贈者ニ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス  
2 負担付贈与については、贈与者は、その負担の限度において、売主と同じく担保の責任を負う。 2 負担附贈与ニ付テハ贈与者ハ其負担ノ限度ニ於テ売主ト同シク担保ノ責ニ任ス  
(定期贈与)    
第五百五十二条 定期の給付を目的とする贈与は、贈与者又は受贈者の死亡によって、その効力を失う。 第五百五十二条  定期ノ給付ヲ目的トスル贈与ハ贈与者又ハ受贈者ノ死亡ニ因リテ其効力ヲ失フ  
(負担付贈与)    
第五百五十三条 負担付贈与については、この節に定めるもののほか、その性質に反しない限り、双務契約に関する規定を準用する。 第五百五十三条  負担附贈与ニ付テハ本節ノ規定ノ外双務契約ニ関スル規定ヲ適用ス  
(死因贈与)    
第五百五十四条 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。 第五百五十四条  贈与者ノ死亡ニ因リテ効力ヲ生スヘキ贈与ハ遺贈ニ関スル規定ニ従フ  
第三節 売買 第三節 売買  
第一款 総則 第一款 総則  
(売買)    
第五百五十五条 売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第五百五十五条  売買ハ当事者ノ一方カ或財産権ヲ相手方ニ移転スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其代金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(売買の一方の予約)    
第五百五十六条 売買の一方の予約は、相手方が売買を完結する意思を表示した時から、売買の効力を生ずる。 第五百五十六条  売買ノ一方ノ予約ハ相手方カ売買ヲ完結スル意思ヲ表示シタル時ヨリ売買ノ効力ヲ生ス  
2 前項の意思表示について期間を定めなかったときは、予約者は、相手方に対し、相当の期間を定めて、その期間内に売買を完結するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、相手方がその期間内に確答をしないときは、売買の一方の予約は、その効力を失う。 2 前項ノ意思表示ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ予約者ハ相当ノ期間ヲ定メ其期間内ニ売買ヲ完結スルヤ否ヤヲ確答スヘキ旨ヲ相手方ニ催告スルコトヲ得若シ相手方カ其期間内ニ確答ヲ為ササルトキハ予約ハ其効力ヲ失フ  
(手付)    
第五百五十七条 買主が売主に手付を交付したときは、当事者の一方が契約の履行に着手するまでは、買主はその手付を放棄し、売主はその倍額を償還して、契約の解除をすることができる。 第五百五十七条  買主カ売主ニ手附ヲ交付シタルトキハ当事者ノ一方カ契約ノ履行ニ著手スルマテハ買主ハ其手附ヲ抛棄シ売主ハ其倍額ヲ償還シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
2 第五百四十五条第三項の規定は、前項の場合には、適用しない。 2 第五百四十五条第三項ノ規定ハ前項ノ場合ニハ之ヲ適用セス  
(売買契約に関する費用)    
第五百五十八条 売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担する。 第五百五十八条  売買契約ニ関スル費用ハ当事者双方平分シテ之ヲ負担ス  
(有償契約への準用)    
第五百五十九条 この節の規定は、売買以外の有償契約について準用する。ただし、その有償契約の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 第五百五十九条  本節ノ規定ハ売買以外ノ有償契約ニ之ヲ準用ス但其契約ノ性質カ之ヲ許ササルトキハ此限ニ在ラス  
第二款 売買の効力 第二款 売買ノ効力  
(他人の権利の売買における売主の義務)    
第五百六十条 他人の権利を売買の目的としたときは、売主は、その権利を取得して買主に移転する義務を負う。 第五百六十条  他人ノ権利ヲ以テ売買ノ目的ト為シタルトキハ売主ハ其権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スル義務ヲ負フ  
(他人の権利の売買における売主の担保責任)    
第五百六十一条 前条の場合において、売主がその売却した権利を取得して買主に移転することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の時においてその権利が売主に属しないことを知っていたときは、損害賠償の請求をすることができない。 第五百六十一条  前条ノ場合ニ於テ売主カ其売却シタル権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但契約ノ当時其権利ノ売主ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得ス  
(他人の権利の売買における善意の売主の解除権)    
第五百六十二条 売主が契約の時においてその売却した権利が自己に属しないことを知らなかった場合において、その権利を取得して買主に移転することができないときは、売主は、損害を賠償して、契約の解除をすることができる。 第五百六十二条  売主カ契約ノ当時其売却シタル権利ノ自己ニ属セサルコトヲ知ラサリシ場合ニ於テ其権利ヲ取得シテ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ売主ハ損害ヲ賠償シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
2 前項の場合において、買主が契約の時においてその買い受けた権利が売主に属しないことを知っていたときは、売主は、買主に対し、単にその売却した権利を移転することができない旨を通知して、契約の解除をすることができる。 2 前項ノ場合ニ於テ買主カ契約ノ当時其買受ケタル権利ノ売主ニ属セサルコトヲ知リタルトキハ売主ハ買主ニ対シ単ニ其売却シタル権利ヲ移転スルコト能ハサル旨ヲ通知シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(権利の一部が他人に属する場合における売主の担保責任)    
第五百六十三条 売買の目的である権利の一部が他人に属することにより、売主がこれを買主に移転することができないときは、買主は、その不足する部分の割合に応じて代金の減額を請求することができる。 第五百六十三条  売買ノ目的タル権利ノ一部カ他人ニ属スルニ因リ売主カ之ヲ買主ニ移転スルコト能ハサルトキハ買主ハ其足ラサル部分ノ割合ニ応シテ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項の場合において、残存する部分のみであれば買主がこれを買い受けなかったときは、善意の買主は、契約の解除をすることができる。 2 前項ノ場合ニ於テ残存スル部分ノミナレハ買主カ之ヲ買受ケサルヘカリシトキハ善意ノ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
3 代金減額の請求又は契約の解除は、善意の買主が損害賠償の請求をすることを妨げない。 3 代金減額ノ請求又ハ契約ノ解除ハ善意ノ買主カ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ妨ケス  
第五百六十四条 前条の規定による権利は、買主が善意であったときは事実を知った時から、悪意であったときは契約の時から、それぞれ一年以内に行使しなければならない。 第五百六十四条  前条ニ定メタル権利ハ買主カ善意ナリシトキハ事実ヲ知リタル時ヨリ悪意ナリシトキハ契約ノ時ヨリ一年内ニ之ヲ行使スルコトヲ要ス  
(数量の不足又は物の一部滅失の場合における売主の担保責任)    
第五百六十五条 前二条の規定は、数量を指示して売買をした物に不足がある場合又は物の一部が契約の時に既に滅失していた場合において、買主がその不足又は滅失を知らなかったときについて準用する。 第五百六十五条  数量ヲ指示シテ売買シタル物カ不足ナル場合及ヒ物ノ一部カ契約ノ当時既ニ滅失シタル場合ニ於テ買主カ其不足又ハ滅失ヲ知ラサリシトキハ前二条ノ規定ヲ準用ス  
(地上権等がある場合等における売主の担保責任)    
第五百六十六条 売買の目的物が地上権、永小作権、地役権、留置権又は質権の目的である場合において、買主がこれを知らず、かつ、そのために契約をした目的を達することができないときは、買主は、契約の解除をすることができる。この場合において、契約の解除をすることができないときは、損害賠償の請求のみをすることができる。 第五百六十六条  売買ノ目的物カ地上権、永小作権、地役権、留置権又ハ質権ノ目的タル場合ニ於テ買主カ之ヲ知ラサリシトキハ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサル場合ニ限リ買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得其他ノ場合ニ於テハ損害賠償ノ請求ノミヲ為スコトヲ得  
2 前項の規定は、売買の目的である不動産のために存すると称した地役権が存しなかった場合及びその不動産について登記をした賃貸借があった場合について準用する。 2 前項ノ規定ハ売買ノ目的タル不動産ノ為メニ存セリト称セシ地役権カ存セサリシトキ及ヒ其不動産ニ付キ登記シタル賃貸借アリタル場合ニ之ヲ準用ス  
3 前二項の場合において、契約の解除又は損害賠償の請求は、買主が事実を知った時から一年以内にしなければならない。 3 前二項ノ場合ニ於テ契約ノ解除又ハ損害賠償ノ請求ハ買主カ事実ヲ知リタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス  
(抵当権等がある場合における売主の担保責任)    
第五百六十七条 売買の目的である不動産について存した先取特権又は抵当権の行使により買主がその所有権を失ったときは、買主は、契約の解除をすることができる。 第五百六十七条  売買ノ目的タル不動産ノ上ニ存シタル先取特権又ハ抵当権ノ行使ニ因リ買主カ其所有権ヲ失ヒタルトキハ其買主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
2 買主は、費用を支出してその所有権を保存したときは、売主に対し、その費用の償還を請求することができる。 2 買主カ出捐ヲ為シテ其所有権ヲ保存シタルトキハ売主ニ対シテ其出捐ノ償還ヲ請求スルコトヲ得  
3 前二項の場合において、買主は、損害を受けたときは、その賠償を請求することができる。 3 右孰レノ場合ニ於テモ買主カ損害ヲ受ケタルトキハ其賠償ヲ請求スルコトヲ得  
(強制競売における担保責任)    
第五百六十八条 強制競売における買受人は、第五百六十一条から前条までの規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。 第五百六十八条  強制競売ノ場合ニ於テハ買受人ハ前七条ノ規定ニ依リ債務者ニ対シテ契約ノ解除ヲ為シ又ハ代金ノ減額ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。 2 前項ノ場合ニ於テ債務者カ無資力ナルトキハ買受人ハ代金ノ配当ヲ受ケタル債権者ニ対シテ其代金ノ全部又ハ一部ノ返還ヲ請求スルコトヲ得  
3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。 3 前二項ノ場合ニ於テ債務者カ物又ハ権利ノ欠缺ヲ知リテ之ヲ申出テス又ハ債権者カ之ヲ知リテ競売ヲ請求シタルトキハ買受人ハ其過失者ニ対シテ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得  
(債権の売主の担保責任)    
第五百六十九条 債権の売主が債務者の資力を担保したときは、契約の時における資力を担保したものと推定する。 第五百六十九条  債権ノ売主カ債務者ノ資力ヲ担保シタルトキハ契約ノ当時ニ於ケル資力ヲ担保シタルモノト推定ス  
2 弁済期に至らない債権の売主が債務者の将来の資力を担保したときは、弁済期における資力を担保したものと推定する。 2 弁済期ニ至ラサル債権ノ売主カ債務者ノ将来ノ資力ヲ担保シタルトキハ弁済ノ期日ニ於ケル資力ヲ担保シタルモノト推定ス  
(売主の瑕疵担保責任)    
第五百七十条 売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない。 第五百七十条  売買ノ目的物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ第五百六十六条ノ規定ヲ準用ス但強制競売ノ場合ハ此限ニ在ラス  
(売主の担保責任と同時履行)    
第五百七十一条 第五百三十三条の規定は、第五百六十三条から第五百六十六条まで及び前条の場合について準用する。 第五百七十一条  第五百三十三条ノ規定ハ第五百六十三条乃至第五百六十六条及ヒ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(担保責任を負わない旨の特約)    
第五百七十二条 売主は、第五百六十条から前条までの規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実及び自ら第三者のために設定し又は第三者に譲り渡した権利については、その責任を免れることができない。 第五百七十二条  売主ハ前十二条ニ定メタル担保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ告ケサリシ事実及ヒ自ラ第三者ノ為メニ設定シ又ハ之ニ譲渡シタル権利ニ付テハ其責ヲ免ルルコトヲ得ス  
(代金の支払期限)    
第五百七十三条 売買の目的物の引渡しについて期限があるときは、代金の支払についても同一の期限を付したものと推定する。 第五百七十三条  売買ノ目的物ノ引渡ニ付キ期限アルトキハ代金ノ支払ニ付テモ亦同一ノ期限ヲ附シタルモノト推定ス  
(代金の支払場所)    
第五百七十四条 売買の目的物の引渡しと同時に代金を支払うべきときは、その引渡しの場所において支払わなければならない。 第五百七十四条  売買ノ目的物ノ引渡ト同時ニ代金ヲ払フヘキトキハ其引渡ノ場所ニ於テ之ヲ払フコトヲ要ス  
(果実の帰属及び代金の利息の支払)    
第五百七十五条 まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。 第五百七十五条  未タ引渡ササル売買ノ目的物カ果実ヲ生シタルトキハ其果実ハ売主ニ属ス  
2 買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。 2 買主ハ引渡ノ日ヨリ代金ノ利息ヲ払フ義務ヲ負フ但代金ノ支払ニ付キ期限アルトキハ其期限ノ到来スルマテハ利息ヲ払フコトヲ要セス  
(権利を失うおそれがある場合の買主による代金の支払の拒絶)    
第五百七十六条 売買の目的について権利を主張する者があるために買主がその買い受けた権利の全部又は一部を失うおそれがあるときは、買主は、その危険の限度に応じて、代金の全部又は一部の支払を拒むことができる。ただし、売主が相当の担保を供したときは、この限りでない。 第五百七十六条  売買ノ目的ニ付キ権利ヲ主張スル者アリテ買主カ其買受ケタル権利ノ全部又ハ一部ヲ失フ虞アルトキハ買主ハ其危険ノ限度ニ応シ代金ノ全部又ハ一部ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主カ相当ノ担保ヲ供シタルトキハ此限ニ在ラス  
(抵当権等の登記がある場合の買主による代金の支払の拒絶)    
第五百七十七条 買い受けた不動産について抵当権の登記があるときは、買主は、抵当権消滅請求の手続が終わるまで、その代金の支払を拒むことができる。この場合において、売主は、買主に対し、遅滞なく抵当権消滅請求をすべき旨を請求することができる。 第五百七十七条  買受ケタル不動産ニ付キ抵当権ノ登記アルトキハ買主ハ抵当権消滅請求ノ手続ヲ終ハルマテ其代金ノ支払ヲ拒ムコトヲ得但売主ハ買主ニ対シテ遅滞ナク抵当権消滅請求ヲ為スヘキ旨ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項の規定は、買い受けた不動産について先取特権又は質権の登記がある場合について準用する。 2 前項ノ規定ハ買受ケタル不動産ニ付キ先取特権又ハ質権ノ登記アル場合ニ之ヲ準用ス  
(売主による代金の供託の請求)    
第五百七十八条 前二条の場合においては、売主は、買主に対して代金の供託を請求することができる。 第五百七十八条  前二条ノ場合ニ於テ売主ハ買主ニ対シテ代金ノ供託ヲ請求スルコトヲ得  
第三款 買戻し 第三款 買戻  
(買戻しの特約)    
第五百七十九条 不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。 第五百七十九条  不動産ノ売主ハ売買契約ト同時ニ為シタル買戻ノ特約ニ依リ買主カ払ヒタル代金及ヒ契約ノ費用ヲ返還シテ其売買ノ解除ヲ為スコトヲ得但当事者カ別段ノ意思ヲ表示セサリシトキハ不動産ノ果実ト代金ノ利息トハ之ヲ相殺シタルモノト看做ス  
(買戻しの期間)    
第五百八十条 買戻しの期間は、十年を超えることができない。特約でこれより長い期間を定めたときは、その期間は、十年とする。 第五百八十条  買戻ノ期間ハ十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ之ヲ十年ニ短縮ス  
2 買戻しについて期間を定めたときは、その後にこれを伸長することができない。 2 買戻ニ付キ期間ヲ定メタルトキハ後日之ヲ伸長スルコトヲ得ス  
3 買戻しについて期間を定めなかったときは、五年以内に買戻しをしなければならない。 3 買戻ニ付キ期間ヲ定メサリシトキハ五年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス  
(買戻しの特約の対抗力)    
第五百八十一条 売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。 第五百八十一条  売買契約ト同時ニ買戻ノ特約ヲ登記シタルトキハ買戻ハ第三者ニ対シテモ其効力ヲ生ス  
2 登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。 2 登記ヲ為シタル賃借人ノ権利ハ其残期一年間ニ限リ之ヲ以テ売主ニ対抗スルコトヲ得但売主ヲ害スル目的ヲ以テ賃貸借ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス  
(買戻権の代位行使)    
第五百八十二条 売主の債権者が第四百二十三条の規定により売主に代わって買戻しをしようとするときは、買主は、裁判所において選任した鑑定人の評価に従い、不動産の現在の価額から売主が返還すべき金額を控除した残額に達するまで売主の債務を弁済し、なお残余があるときはこれを売主に返還して、買戻権を消滅させることができる。 第五百八十二条  売主ノ債権者カ第四百二十三条ノ規定ニ依リ売主ニ代ハリテ買戻ヲ為サント欲スルトキハ買主ハ裁判所ニ於テ選定シタル鑑定人ノ評価ニ従ヒ不動産ノ現時ノ価額ヨリ売主カ返還スヘキ金額ヲ控除シタル残額ニ達スルマテ売主ノ債務ヲ弁済シ尚ホ余剰アルトキハ之ヲ売主ニ返還シテ買戻権ヲ消滅セシムルコトヲ得  
(買戻しの実行)    
第五百八十三条 売主は、第五百八十条に規定する期間内に代金及び契約の費用を提供しなければ、買戻しをすることができない。 第五百八十三条  売主ハ期間内ニ代金及ヒ契約ノ費用ヲ提供スルニ非サレハ買戻ヲ為スコトヲ得ス  
2 買主又は転得者が不動産について費用を支出したときは、売主は、第百九十六条の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、有益費については、裁判所は、売主の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 2 買主又ハ転得者カ不動産ニ付キ費用ヲ出タシタルトキハ売主ハ第百九十六条ノ規定ニ従ヒ之ヲ償還スルコトヲ要ス但有益費ニ付テハ裁判所ハ売主ノ請求ニ因リ之ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得  
(共有持分の買戻特約付売買)    
第五百八十四条 不動産の共有者の一人が買戻しの特約を付してその持分を売却した後に、その不動産の分割又は競売があったときは、売主は、買主が受け、若しくは受けるべき部分又は代金について、買戻しをすることができる。ただし、売主に通知をしないでした分割及び競売は、売主に対抗することができない。 第五百八十四条  不動産ノ共有者ノ一人カ買戻ノ特約ヲ以テ其持分ヲ売却シタル後其不動産ノ分割又ハ競売アリタルトキハ売主ハ買主カ受ケタル若クハ受クヘキ部分又ハ代金ニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得但売主ニ通知セスシテ為シタル分割及ヒ競売ハ之ヲ以テ売主ニ対抗スルコトヲ得ス  
第五百八十五条 前条の場合において、買主が不動産の競売における買受人となったときは、売主は、競売の代金及び第五百八十三条に規定する費用を支払って買戻しをすることができる。この場合において、売主は、その不動産の全部の所有権を取得する。 第五百八十五条  前条ノ場合ニ於テ買主カ不動産ノ競売ノ買受人ト為リタルトキハ売主ハ競売ノ代金及ヒ第五百八十三条ニ掲ケタル費用ヲ払ヒテ買戻ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ売主ハ其不動産ノ全部ノ所有権ヲ取得ス  
2 他の共有者が分割を請求したことにより買主が競売における買受人となったときは、売主は、その持分のみについて買戻しをすることはできない。 2 他ノ共有者ヨリ分割ヲ請求シタルニ因リ買主カ競売ノ買受人ト為リタルトキハ売主ハ其持分ノミニ付キ買戻ヲ為スコトヲ得ス  
第四節 交換 第四節 交換  
第五百八十六条 交換は、当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転することを約することによって、その効力を生ずる。 第五百八十六条  交換ハ当事者カ互ニ金銭ノ所有権ニ非サル財産権ヲ移転スルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
2 当事者の一方が他の権利とともに金銭の所有権を移転することを約した場合におけるその金銭については、売買の代金に関する規定を準用する。 2 当事者ノ一方カ他ノ権利ト共ニ金銭ノ所有権ヲ移転スルコトヲ約シタルトキハ其金銭ニ付テハ売買ノ代金ニ関スル規定ヲ準用ス  
第五節 消費貸借 第五節 消費貸借  
(消費貸借)    
第五百八十七条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第五百八十七条  消費貸借ハ当事者ノ一方カ種類、品等及ヒ数量ノ同シキ物ヲ以テ返還ヲ為スコトヲ約シテ相手方ヨリ金銭其他ノ物ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(準消費貸借)    
第五百八十八条 消費貸借によらないで金銭その他の物を給付する義務を負う者がある場合において、当事者がその物を消費貸借の目的とすることを約したときは、消費貸借は、これによって成立したものとみなす。 第五百八十八条  消費貸借ニ因ラスシテ金銭其他ノ物ヲ給付スル義務ヲ負フ者アル場合ニ於テ当事者カ其物ヲ以テ消費貸借ノ目的ト為スコトヲ約シタルトキハ消費貸借ハ之ニ因リテ成立シタルモノト看做ス  
(消費貸借の予約と破産手続の開始)    
第五百八十九条 消費貸借の予約は、その後に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。 第五百八十九条  消費貸借ノ予約ハ爾後当事者ノ一方カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ其効力ヲ失フ  
(貸主の担保責任)    
第五百九十条 利息付きの消費貸借において、物に隠れた瑕疵があったときは、貸主は、瑕疵がない物をもってこれに代えなければならない。この場合においては、損害賠償の請求を妨げない。 第五百九十条  利息附ノ消費貸借ニ於テ物ニ隠レタル瑕疵アリタルトキハ貸主ハ瑕疵ナキ物ヲ以テ之ニ代フルコトヲ要ス但損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
2 無利息の消費貸借においては、借主は、瑕疵がある物の価額を返還することができる。この場合において、貸主がその瑕疵を知りながら借主に告げなかったときは、前項の規定を準用する。 2 無利息ノ消費貸借ニ於テハ借主ハ瑕疵アル物ノ価額ヲ返還スルコトヲ得但貸主カ其瑕疵ヲ知リテ之ヲ借主ニ告ケサリシトキハ前項ノ規定ヲ準用ス  
(返還の時期)    
第五百九十一条 当事者が返還の時期を定めなかったときは、貸主は、相当の期間を定めて返還の催告をすることができる。 第五百九十一条  当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ貸主ハ相当ノ期間ヲ定メテ返還ノ催告ヲ為スコトヲ得  
2 借主は、いつでも返還をすることができる。 2 借主ハ何時ニテモ返還ヲ為スコトヲ得  
(価額の償還)    
第五百九十二条 借主が貸主から受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることができなくなったときは、その時における物の価額を償還しなければならない。ただし、第四百二条第二項に規定する場合は、この限りでない。 第五百九十二条  借主カ第五百八十七条ノ規定ニ依リテ返還ヲ為スコト能ハサルニ至リタルトキハ其時ニ於ケル物ノ価額ヲ償還スルコトヲ要ス但第四百二条第二項ノ場合ハ此限ニ在ラス  
第六節 使用貸借 第六節 使用貸借  
(使用貸借)    
第五百九十三条 使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第五百九十三条  使用貸借ハ当事者ノ一方カ無償ニテ使用及ヒ収益ヲ為シタル後返還ヲ為スコトヲ約シテ相手方ヨリ或物ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(借主による使用及び収益)    
第五百九十四条 借主は、契約又はその目的物の性質によって定まった用法に従い、その物の使用及び収益をしなければならない。 第五百九十四条  借主ハ契約又ハ其目的物ノ性質ニ因リテ定マリタル用方ニ従ヒ其物ノ使用及ヒ収益ヲ為スコトヲ要ス  
2 借主は、貸主の承諾を得なければ、第三者に借用物の使用又は収益をさせることができない。 2 借主ハ貸主ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ借用物ノ使用又ハ収益ヲ為サシムルコトヲ得ス  
3 借主が前二項の規定に違反して使用又は収益をしたときは、貸主は、契約の解除をすることができる。 3 借主カ前二項ノ規定ニ反スル使用又ハ収益ヲ為シタルトキハ貸主ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(借用物の費用の負担)    
第五百九十五条 借主は、借用物の通常の必要費を負担する。 第五百九十五条  借主ハ借用物ノ通常ノ必要費ヲ負担ス  
2 第五百八十三条第二項の規定は、前項の通常の必要費以外の費用について準用する。 2 此他ノ費用ニ付テハ第五百八十三条第二項ノ規定ヲ準用ス  
(貸主の担保責任)    
第五百九十六条 第五百五十一条の規定は、使用貸借について準用する。 第五百九十六条  第五百五十一条ノ規定ハ使用貸借ニ之ヲ準用ス  
(借用物の返還の時期)    
第五百九十七条 借主は、契約に定めた時期に、借用物の返還をしなければならない。 第五百九十七条  借主ハ契約ニ定メタル時期ニ於テ借用物ノ返還ヲ為スコトヲ要ス  
2 当事者が返還の時期を定めなかったときは、借主は、契約に定めた目的に従い使用及び収益を終わった時に、返還をしなければならない。ただし、その使用及び収益を終わる前であっても、使用及び収益をするのに足りる期間を経過したときは、貸主は、直ちに返還を請求することができる。 2 当事者カ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ借主ハ契約ニ定メタル目的ニ従ヒ使用及ヒ収益ヲ終ハリタル時ニ於テ返還ヲ為スコトヲ要ス但其以前ト雖モ使用及ヒ収益ヲ為スニ足ルヘキ期間ヲ経過シタルトキハ貸主ハ直チニ返還ヲ請求スルコトヲ得  
3 当事者が返還の時期並びに使用及び収益の目的を定めなかったときは、貸主は、いつでも返還を請求することができる。 3 当事者カ返還ノ時期又ハ使用及ヒ収益ノ目的ヲ定メサリシトキハ貸主ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得  
(借主による収去)    
第五百九十八条 借主は、借用物を原状に復して、これに附属させた物を収去することができる。 第五百九十八条  借主ハ借用物ヲ原状ニ復シテ之ニ附属セシメタル物ヲ収去スルコトヲ得  
(借主の死亡による使用貸借の終了)    
第五百九十九条 使用貸借は、借主の死亡によって、その効力を失う。 第五百九十九条  使用貸借ハ借主ノ死亡ニ因リテ其効力ヲ失フ  
(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)    
第六百条 契約の本旨に反する使用又は収益によって生じた損害の賠償及び借主が支出した費用の償還は、貸主が返還を受けた時から一年以内に請求しなければならない。 第六百条  契約ノ本旨ニ反スル使用又ハ収益ニ因リテ生シタル損害ノ賠償及ヒ借主カ出タシタル費用ノ償還ハ貸主カ返還ヲ受ケタル時ヨリ一年内ニ之ヲ請求スルコトヲ要ス  
第七節 賃貸借 第七節 賃貸借  
第一款 総則 第一款 総則  
(賃貸借)    
第六百一条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第六百一条  賃貸借ハ当事者ノ一方カ相手方ニ或物ノ使用及ヒ収益ヲ為サシムルコトヲ約シ相手方カ之ニ其賃金ヲ払フコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(短期賃貸借)    
第六百二条 処分につき行為能力の制限を受けた者又は処分の権限を有しない者が賃貸借をする場合には、次の各号に掲げる賃貸借は、それぞれ当該各号に定める期間を超えることができない。 第六百二条  処分ノ能力又ハ権限ヲ有セサル者カ賃貸借ヲ為ス場合ニ於テハ其賃貸借ハ左ノ期間ヲ超ユルコトヲ得ス  
一 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 十年 一  樹木ノ栽植又ハ伐採ヲ目的トスル山林ノ賃貸借ハ十年  
二 前号に掲げる賃貸借以外の土地の賃貸借 五年 二  其他ノ土地ノ賃貸借ハ五年  
三 建物の賃貸借 三年 三  建物ノ賃貸借ハ三年  
四 動産の賃貸借 六箇月 四  動産ノ賃貸借ハ六个月  
(短期賃貸借の更新)    
第六百三条 前条に定める期間は、更新することができる。ただし、その期間満了前、土地については一年以内、建物については三箇月以内、動産については一箇月以内に、その更新をしなければならない。 第六百三条  前条ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但其期間満了前土地ニ付テハ一年内建物ニ付テハ三个月内動産ニ付テハ一个月内ニ其更新ヲ為スコトヲ要ス  
(賃貸借の存続期間)    
第六百四条 賃貸借の存続期間は、二十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても、その期間は、二十年とする。 第六百四条  賃貸借ノ存続期間ハ二十年ヲ超ユルコトヲ得ス若シ之ヨリ長キ期間ヲ以テ賃貸借ヲ為シタルトキハ其期間ハ之ヲ二十年ニ短縮ス  
2 賃貸借の存続期間は、更新することができる。ただし、その期間は、更新の時から二十年を超えることができない。 2 前項ノ期間ハ之ヲ更新スルコトヲ得但更新ノ時ヨリ二十年ヲ超ユルコトヲ得ス  
第二款 賃貸借の効力 第二款 賃貸借ノ効力  
(不動産賃貸借の対抗力)    
第六百五条 不動産の賃貸借は、これを登記したときは、その後その不動産について物権を取得した者に対しても、その効力を生ずる。 第六百五条  不動産ノ賃貸借ハ之ヲ登記シタルトキハ爾後其不動産ニ付キ物権ヲ取得シタル者ニ対シテモ其効力ヲ生ス  
(賃貸物の修繕等)    
第六百六条 賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。 第六百六条  賃貸人ハ賃貸物ノ使用及ヒ収益ニ必要ナル修繕ヲ為ス義務ヲ負フ  
2 賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。 2 賃貸人カ賃貸物ノ保存ニ必要ナル行為ヲ為サント欲スルトキハ賃借人ハ之ヲ拒ムコトヲ得ス  
(賃借人の意思に反する保存行為)    
第六百七条 賃貸人が賃借人の意思に反して保存行為をしようとする場合において、そのために賃借人が賃借をした目的を達することができなくなるときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。 第六百七条  賃貸人カ賃借人ノ意思ニ反シテ保存行為ヲ為サント欲スル場合ニ於テ之カ為メ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(賃借人による費用の償還請求)    
第六百八条 賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。 第六百八条  賃借人カ賃借物ニ付キ賃貸人ノ負担ニ属スル必要費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ニ対シテ直チニ其償還ヲ請求スルコトヲ得  
2 賃借人が賃借物について有益費を支出したときは、賃貸人は、賃貸借の終了の時に、第百九十六条第二項の規定に従い、その償還をしなければならない。ただし、裁判所は、賃貸人の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。 2 賃借人カ有益費ヲ出タシタルトキハ賃貸人ハ賃貸借終了ノ時ニ於テ第百九十六条第二項ノ規定ニ従ヒ其償還ヲ為スコトヲ要ス但裁判所ハ賃貸人ノ請求ニ因リ之ニ相当ノ期限ヲ許与スルコトヲ得  
(減収による賃料の減額請求)    
第六百九条 収益を目的とする土地の賃借人は、不可抗力によって賃料より少ない収益を得たときは、その収益の額に至るまで、賃料の減額を請求することができる。ただし、宅地の賃貸借については、この限りでない。 第六百九条  収益ヲ目的トスル土地ノ賃借人カ不可抗力ニ因リ借賃ヨリ少キ収益ヲ得タルトキハ其収益ノ額ニ至ルマテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得但宅地ノ賃貸借ニ付テハ此限ニ在ラス  
(減収による解除)    
第六百十条 前条の場合において、同条の賃借人は、不可抗力によって引き続き二年以上賃料より少ない収益を得たときは、契約の解除をすることができる。 第六百十条  前条ノ場合ニ於テ賃借人カ不可抗力ニ因リ引続キ二年以上借賃ヨリ少キ収益ヲ得タルトキハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(賃借物の一部滅失による賃料の減額請求等)    
第六百十一条 賃借物の一部が賃借人の過失によらないで滅失したときは、賃借人は、その滅失した部分の割合に応じて、賃料の減額を請求することができる。 第六百十一条  賃借物ノ一部カ賃借人ノ過失ニ因ラスシテ滅失シタルトキハ賃借人ハ其滅失シタル部分ノ割合ニ応シテ借賃ノ減額ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項の場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。 2 前項ノ場合ニ於テ残存スル部分ノミニテハ賃借人カ賃借ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ賃借人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(賃借権の譲渡及び転貸の制限)    
第六百十二条 賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、又は賃借物を転貸することができない。 第六百十二条  賃借人ハ賃貸人ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ譲渡シ又ハ賃借物ヲ転貸スルコトヲ得ス  
2 賃借人が前項の規定に違反して第三者に賃借物の使用又は収益をさせたときは、賃貸人は、契約の解除をすることができる。 2 賃借人カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ賃借物ノ使用又ハ収益ヲ為サシメタルトキハ賃貸人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(転貸の効果)    
第六百十三条 賃借人が適法に賃借物を転貸したときは、転借人は、賃貸人に対して直接に義務を負う。この場合においては、賃料の前払をもって賃貸人に対抗することができない。 第六百十三条  賃借人カ適法ニ賃借物ヲ転貸シタルトキハ転借人ハ賃貸人ニ対シテ直接ニ義務ヲ負フ此場合ニ於テハ借賃ノ前払ヲ以テ賃貸人ニ対抗スルコトヲ得ス  
2 前項の規定は、賃貸人が賃借人に対してその権利を行使することを妨げない。 2 前項ノ規定ハ賃貸人カ賃借人ニ対シテ其権利ヲ行使スルコトヲ妨ケス  
(賃料の支払時期)    
第六百十四条 賃料は、動産、建物及び宅地については毎月末に、その他の土地については毎年末に、支払わなければならない。ただし、収穫の季節があるものについては、その季節の後に遅滞なく支払わなければならない。 第六百十四条  借賃ハ動産、建物及ヒ宅地ニ付テハ毎月末ニ其他ノ土地ニ付テハ毎年末ニ之ヲ払フコトヲ要ス但収穫季節アルモノニ付テハ其季節後遅滞ナク之ヲ払フコトヲ要ス  
(賃借人の通知義務)    
第六百十五条 賃借物が修繕を要し、又は賃借物について権利を主張する者があるときは、賃借人は、遅滞なくその旨を賃貸人に通知しなければならない。ただし、賃貸人が既にこれを知っているときは、この限りでない。 第六百十五条  賃借物カ修繕ヲ要シ又ハ賃借物ニ付キ権利ヲ主張スル者アルトキハ賃借人ハ遅滞ナク之ヲ賃貸人ニ通知スルコトヲ要ス但賃貸人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス  
(使用貸借の規定の準用)    
第六百十六条 第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及び第五百九十八条の規定は、賃貸借について準用する。 第六百十六条  第五百九十四条第一項、第五百九十七条第一項及ヒ第五百九十八条ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス  
第三款 賃貸借の終了 第三款 賃貸借ノ終了  
(期間の定めのない賃貸借の解約の申入れ)    
第六百十七条 当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合においては、次の各号に掲げる賃貸借は、解約の申入れの日からそれぞれ当該各号に定める期間を経過することによって終了する。 第六百十七条  当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ賃貸借ハ解約申入ノ後左ノ期間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス  
一 土地の賃貸借 一年 一  土地ニ付テハ一年  
二 建物の賃貸借 三箇月 二  建物ニ付テハ三个月  
三 動産及び貸席の賃貸借 一日 三  貸席及ヒ動産ニ付テハ一日  
2 収穫の季節がある土地の賃貸借については、その季節の後次の耕作に着手する前に、解約の申入れをしなければならない。 2 収穫季節アル土地ノ賃貸借ニ付テハ其季節後次ノ耕作ニ著手スル前ニ解約ノ申入ヲ為スコトヲ要ス  
(期間の定めのある賃貸借の解約をする権利の留保)    
第六百十八条 当事者が賃貸借の期間を定めた場合であっても、その一方又は双方がその期間内に解約をする権利を留保したときは、前条の規定を準用する。 第六百十八条  当事者カ賃貸借ノ期間ヲ定メタルモ其一方又ハ各自カ其期間内ニ解約ヲ為ス権利ヲ留保シタルトキハ前条ノ規定ヲ準用ス  
(賃貸借の更新の推定等)    
第六百十九条 賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において、賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。 第六百十九条  賃貸借ノ期間満了ノ後賃借人カ賃借物ノ使用又ハ収益ヲ継続スル場合ニ於テ賃貸人カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前賃貸借ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ賃貸借ヲ為シタルモノト推定ス但各当事者ハ第六百十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得  
2 従前の賃貸借について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、敷金については、この限りでない。 2 前賃貸借ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス但敷金ハ此限ニ在ラス  
(賃貸借の解除の効力)    
第六百二十条 賃貸借の解除をした場合には、その解除は、将来に向かってのみその効力を生ずる。この場合において、当事者の一方に過失があったときは、その者に対する損害賠償の請求を妨げない。 第六百二十条  賃貸借ヲ解除シタル場合ニ於テハ其解除ハ将来ニ向テノミ其効力ヲ生ス但当事者ノ一方ニ過失アリタルトキハ之ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
(損害賠償及び費用の償還の請求権についての期間の制限)    
第六百二十一条 第六百条の規定は、賃貸借について準用する。 第六百二十一条  削除サクジョ  
第六百二十二条 削除 第六百二十二条  第六百条ノ規定ハ賃貸借ニ之ヲ準用ス  
第八節 雇用 第八節 雇傭  
(雇用)    
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。 第六百二十三条  雇傭ハ当事者ノ一方カ相手方ニ対シテ労務ニ服スルコトヲ約シ相手方カ之ニ其報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(報酬の支払時期)    
第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。 第六百二十四条  労務者ハ其約シタル労務ヲ終ハリタル後ニ非サレハ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス  
2 期間によって定めた報酬は、その期間を経過した後に、請求することができる。 2 期間ヲ以テ定メタル報酬ハ其期間ノ経過シタル後之ヲ請求スルコトヲ得  
(使用者の権利の譲渡の制限等)    
第六百二十五条 使用者は、労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない。 第六百二十五条  使用者ハ労務者ノ承諾アルニ非サレハ其権利ヲ第三者ニ譲渡スコトヲ得ス  
2 労働者は、使用者の承諾を得なければ、自己に代わって第三者を労働に従事させることができない。 2 労務者ハ使用者ノ承諾アルニ非サレハ第三者ヲシテ自己ニ代ハリテ労務ニ服セシムルコトヲ得ス  
3 労働者が前項の規定に違反して第三者を労働に従事させたときは、使用者は、契約の解除をすることができる。 3 労務者カ前項ノ規定ニ反シ第三者ヲシテ労務ニ服セシメタルトキハ使用者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(期間の定めのある雇用の解除)    
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。 第六百二十六条  雇傭ノ期間カ五年ヲ超過シ又ハ当事者ノ一方若クハ第三者ノ終身間継続スヘキトキハ当事者ノ一方ハ五年ヲ経過シタル後何時ニテモ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但此期間ハ商工業見習者ノ雇傭ニ付テハ之ヲ十年トス  
2 前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。 2 前項ノ規定ニ依リテ契約ノ解除ヲ為サント欲スルトキハ三个月前ニ其予告ヲ為スコトヲ要ス  
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)    
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。 第六百二十七条  当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メサリシトキハ各当事者ハ何時ニテモ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ雇傭ハ解約申入ノ後二週間ヲ経過シタルニ因リテ終了ス  
2 期間によって報酬を定めた場合には、解約の申入れは、次期以後についてすることができる。ただし、その解約の申入れは、当期の前半にしなければならない。 2 期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ解約ノ申入ハ次期以後ニ対シテ之ヲ為スコトヲ得但其申入ハ当期ノ前半ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス  
3 六箇月以上の期間によって報酬を定めた場合には、前項の解約の申入れは、三箇月前にしなければならない。 3 六个月以上ノ期間ヲ以テ報酬ヲ定メタル場合ニ於テハ前項ノ申入ハ三个月前ニ之ヲ為スコトヲ要ス  
(やむを得ない事由による雇用の解除)    
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。 第六百二十八条  当事者カ雇傭ノ期間ヲ定メタルトキト雖モ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各当事者ハ直チニ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但其事由カ当事者ノ一方ノ過失ニ因リテ生シタルトキハ相手方ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス  
(雇用の更新の推定等)    
第六百二十九条 雇用の期間が満了した後労働者が引き続きその労働に従事する場合において、使用者がこれを知りながら異議を述べないときは、従前の雇用と同一の条件で更に雇用をしたものと推定する。この場合において、各当事者は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。 第六百二十九条  雇傭ノ期間満了ノ後労務者カ引続キ其労務ニ服スル場合ニ於テ使用者カ之ヲ知リテ異議ヲ述ヘサルトキハ前雇傭ト同一ノ条件ヲ以テ更ニ雇傭ヲ為シタルモノト推定ス但各当事者ハ第六百二十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得  
2 従前の雇用について当事者が担保を供していたときは、その担保は、期間の満了によって消滅する。ただし、身元保証金については、この限りでない。 2 前雇傭ニ付キ当事者カ担保ヲ供シタルトキハ其担保ハ期間ノ満了ニ因リテ消滅ス但身元保証金ハ此限ニ在ラス  
(雇用の解除の効力)    
第六百三十条 第六百二十条の規定は、雇用について準用する。 第六百三十条  第六百二十条ノ規定ハ雇傭ニ之ヲ準用ス  
(使用者についての破産手続の開始による解約の申入れ)    
第六百三十一条 使用者が破産手続開始の決定を受けた場合には、雇用に期間の定めがあるときであっても、労働者又は破産管財人は、第六百二十七条の規定により解約の申入れをすることができる。この場合において、各当事者は、相手方に対し、解約によって生じた損害の賠償を請求することができない。 第六百三十一条  使用者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ雇傭ニ期間ノ定アルトキト雖モ労務者又ハ破産管財人ハ第六百二十七条ノ規定ニ依リテ解約ノ申入ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス  
第九節 請負 第九節 請負  
(請負)    
第六百三十二条 請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。 第六百三十二条  請負ハ当事者ノ一方カ或仕事ヲ完成スルコトヲ約シ相手方カ其仕事ノ結果ニ対シテ之ニ報酬ヲ与フルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(報酬の支払時期)    
第六百三十三条 報酬は、仕事の目的物の引渡しと同時に、支払わなければならない。ただし、物の引渡しを要しないときは、第六百二十四条第一項の規定を準用する。 第六百三十三条  報酬ハ仕事ノ目的物ノ引渡ト同時ニ之ヲ与フルコトヲ要ス但物ノ引渡ヲ要セサルトキハ第六百二十四条第一項ノ規定ヲ準用ス  
(請負人の担保責任)    
第六百三十四条 仕事の目的物に瑕疵があるときは、注文者は、請負人に対し、相当の期間を定めて、その瑕疵の修補を請求することができる。ただし、瑕疵が重要でない場合において、その修補に過分の費用を要するときは、この限りでない。 第六百三十四条  仕事ノ目的物ニ瑕疵アルトキハ注文者ハ請負人ニ対シ相当ノ期限ヲ定メテ其瑕疵ノ修補ヲ請求スルコトヲ得但瑕疵カ重要ナラサル場合ニ於テ其修補カ過分ノ費用ヲ要スルトキハ此限ニ在ラス  
2 注文者は、瑕疵の修補に代えて、又はその修補とともに、損害賠償の請求をすることができる。この場合においては、第五百三十三条の規定を準用する。 2 注文者ハ瑕疵ノ修補ニ代ヘ又ハ其修補ト共ニ損害賠償ノ請求ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ第五百三十三条ノ規定ヲ準用ス  
第六百三十五条 仕事の目的物に瑕疵があり、そのために契約をした目的を達することができないときは、注文者は、契約の解除をすることができる。ただし、建物その他の土地の工作物については、この限りでない。 第六百三十五条  仕事ノ目的物ニ瑕疵アリテ之カ為メニ契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハサルトキハ注文者ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得但建物其他土地ノ工作物ニ付テハ此限ニ在ラス  
(請負人の担保責任に関する規定の不適用)    
第六百三十六条 前二条の規定は、仕事の目的物の瑕疵が注文者の供した材料の性質又は注文者の与えた指図によって生じたときは、適用しない。ただし、請負人がその材料又は指図が不適当であることを知りながら告げなかったときは、この限りでない。 第六百三十六条  前二条ノ規定ハ仕事ノ目的物ノ瑕疵カ注文者ヨリ供シタル材料ノ性質又ハ注文者ノ与ヘタル指図ニ因リテ生シタルトキハ之ヲ適用セス但請負人カ其材料又ハ指図ノ不適当ナルコトヲ知リテ之ヲ告ケサリシトキハ此限ニ在ラス  
(請負人の担保責任の存続期間)    
第六百三十七条 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。 第六百三十七条  前三条ニ定メタル瑕疵修補又ハ損害賠償ノ請求及ヒ契約ノ解除ハ仕事ノ目的物ヲ引渡シタル時ヨリ一年内ニ之ヲ為スコトヲ要ス  
2 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。 2 仕事ノ目的物ノ引渡ヲ要セサル場合ニ於テハ前項ノ期間ハ仕事終了ノ時ヨリ之ヲ起算ス  
第六百三十八条 建物その他の土地の工作物の請負人は、その工作物又は地盤の瑕疵について、引渡しの後五年間その担保の責任を負う。ただし、この期間は、石造、土造、れんが造、コンクリート造、金属造その他これらに類する構造の工作物については、十年とする。 第六百三十八条  土地ノ工作物ノ請負人ハ其工作物又ハ地盤ノ瑕疵ニ付テハ引渡ノ後五年間其担保ノ責ニ任ス但此期間ハ石造、土造、煉瓦造又ハ金属造ノ工作物ニ付テハ之ヲ十年トス  
2 工作物が前項の瑕疵によって滅失し、又は損傷したときは、注文者は、その滅失又は損傷の時から一年以内に、第六百三十四条の規定による権利を行使しなければならない。 2 工作物カ前項ノ瑕疵ニ因リテ滅失又ハ毀損シタルトキハ注文者ハ其滅失又ハ毀損ノ時ヨリ一年内ニ第六百三十四条ノ権利ヲ行使スルコトヲ要ス  
(担保責任の存続期間の伸長)    
第六百三十九条 第六百三十七条及び前条第一項の期間は、第百六十七条の規定による消滅時効の期間内に限り、契約で伸長することができる。 第六百三十九条  第六百三十七条及ヒ前条第一項ノ期間ハ普通ノ時効期間内ニ限リ契約ヲ以テ之ヲ伸長スルコトヲ得  
(担保責任を負わない旨の特約)    
第六百四十条 請負人は、第六百三十四条又は第六百三十五条の規定による担保の責任を負わない旨の特約をしたときであっても、知りながら告げなかった事実については、その責任を免れることができない。 第六百四十条  請負人ハ第六百三十四条及ヒ第六百三十五条ニ定メタル担保ノ責任ヲ負ハサル旨ヲ特約シタルトキト雖モ其知リテ告ケサリシ事実ニ付テハ其責ヲ免ルルコトヲ得ス  
(注文者による契約の解除)    
第六百四十一条 請負人が仕事を完成しない間は、注文者は、いつでも損害を賠償して契約の解除をすることができる。 第六百四十一条  請負人カ仕事ヲ完成セサル間ハ注文者ハ何時ニテモ損害ヲ賠償シテ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得  
(注文者についての破産手続の開始による解除)    
第六百四十二条 注文者が破産手続開始の決定を受けたときは、請負人又は破産管財人は、契約の解除をすることができる。この場合において、請負人は、既にした仕事の報酬及びその中に含まれていない費用について、破産財団の配当に加入することができる。 第六百四十二条  注文者カ破産ノ宣告ヲ受ケタルトキハ請負人又ハ破産管財人ハ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得此場合ニ於テハ請負人ハ其既ニ為シタル仕事ノ報酬及ヒ其報酬中ニ包含セサル費用ニ付キ財団ノ配当ニ加入スルコトヲ得  
2 前項の場合には、契約の解除によって生じた損害の賠償は、破産管財人が契約の解除をした場合における請負人に限り、請求することができる。この場合において、請負人は、その損害賠償について、破産財団の配当に加入する。 2 前項ノ場合ニ於テハ各当事者ハ相手方ニ対シ解約ニ因リテ生シタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得ス  
第十節 委任 第十節 委任  
(委任)    
第六百四十三条 委任は、当事者の一方が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。 第六百四十三条  委任ハ当事者ノ一方カ法律行為ヲ為スコトヲ相手方ニ委託シ相手方カ之ヲ承諾スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(受任者の注意義務)    
第六百四十四条 受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務を負う。 第六百四十四条  受任者ハ委任ノ本旨ニ従ヒ善良ナル管理者ノ注意ヲ以テ委任事務ヲ処理スル義務ヲ負フ  
(受任者による報告)    
第六百四十五条 受任者は、委任者の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過及び結果を報告しなければならない。 第六百四十五条  受任者ハ委任者ノ請求アルトキハ何時ニテモ委任事務処理ノ状況ヲ報告シ又委任終了ノ後ハ遅滞ナク其顛末ヲ報告スルコトヲ要ス  
(受任者による受取物の引渡し等)    
第六百四十六条 受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。 第六百四十六条  受任者ハ委任事務ヲ処理スルニ当リテ受取リタル金銭其他ノ物ヲ委任者ニ引渡スコトヲ要ス其収取シタル果実亦同シ  
2 受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。 2 受任者カ委任者ノ為メニ自己ノ名ヲ以テ取得シタル権利ハ之ヲ委任者ニ移転スルコトヲ要ス  
(受任者の金銭の消費についての責任)    
第六百四十七条 受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 第六百四十七条  受任者カ委任者ニ引渡スヘキ金額又ハ其利益ノ為メニ用ユヘキ金額ヲ自己ノ為メニ消費シタルトキハ其消費シタル日以後ノ利息ヲ払フコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス  
(受任者の報酬)    
第六百四十八条 受任者は、特約がなければ、委任者に対して報酬を請求することができない。 第六百四十八条  受任者ハ特約アルニ非サレハ委任者ニ対シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得ス  
2 受任者は、報酬を受けるべき場合には、委任事務を履行した後でなければ、これを請求することができない。ただし、期間によって報酬を定めたときは、第六百二十四条第二項の規定を準用する。 2 受任者カ報酬ヲ受クヘキ場合ニ於テハ委任履行ノ後ニ非サレハ之ヲ請求スルコトヲ得ス但期間ヲ以テ報酬ヲ定メタルトキハ第六百二十四条第二項ノ規定ヲ準用ス  
3 委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときは、受任者は、既にした履行の割合に応じて報酬を請求することができる。 3 委任カ受任者ノ責ニ帰スヘカラサル事由ニ因リ其履行ノ半途ニ於テ終了シタルトキハ受任者ハ其既ニ為シタル履行ノ割合ニ応シテ報酬ヲ請求スルコトヲ得  
(受任者による費用の前払請求)    
第六百四十九条 委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。 第六百四十九条  委任事務ヲ処理スルニ付キ費用ヲ要スルトキハ委任者ハ受任者ノ請求ニ因リ其前払ヲ為スコトヲ要ス  
(受任者による費用等の償還請求等)    
第六百五十条 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。 第六百五十条  受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ費用ヲ出タシタルトキハ委任者ニ対シテ其費用及ヒ支出ノ日以後ニ於ケル其利息ノ償還ヲ請求スルコトヲ得  
2 受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。 2 受任者カ委任事務ヲ処理スルニ必要ト認ムヘキ債務ヲ負担シタルトキハ委任者ヲシテ自己ニ代ハリテ其弁済ヲ為サシメ又其債務カ弁済期ニ在ラサルトキハ相当ノ担保ヲ供セシムルコトヲ得  
3 受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。 3 受任者カ委任事務ヲ処理スル為メ自己ニ過失ナクシテ損害ヲ受ケタルトキハ委任者ニ対シテ其賠償ヲ請求スルコトヲ得  
(委任の解除)    
第六百五十一条 委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。 第六百五十一条  委任ハ各当事者ニ於テ何時ニテモ之ヲ解除スルコトヲ得  
2 当事者の一方が相手方に不利な時期に委任の解除をしたときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。 2 当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ不利ナル時期ニ於テ委任ヲ解除シタルトキハ其損害ヲ賠償スルコトヲ要ス但已ムコトヲ得サル事由アリタルトキハ此限ニ在ラス  
(委任の解除の効力)    
第六百五十二条 第六百二十条の規定は、委任について準用する。 第六百五十二条  第六百二十条ノ規定ハ委任ニ之ヲ準用ス  
(委任の終了事由)    
第六百五十三条 委任は、次に掲げる事由によって終了する。 第六百五十三条  委任ハ委任者又ハ受任者ノ死亡又ハ破産ニ因リテ終了ス受任者カ後見開始ノ審判ヲ受ケタルトキ亦同シ  
一 委任者又は受任者の死亡    
二 委任者又は受任者が破産手続開始の決定を受けたこと。    
三 受任者が後見開始の審判を受けたこと。    
(委任の終了後の処分)    
第六百五十四条 委任が終了した場合において、急迫の事情があるときは、受任者又はその相続人若しくは法定代理人は、委任者又はその相続人若しくは法定代理人が委任事務を処理することができるに至るまで、必要な処分をしなければならない。 第六百五十四条  委任終了ノ場合ニ於テ急迫ノ事情アルトキハ受任者、其相続人又ハ法定代理人ハ委任者、其相続人又ハ法定代理人カ委任事務ヲ処理スルコトヲ得ルニ至ルマテ必要ナル処分ヲ為スコトヲ要ス  
(委任の終了の対抗要件)    
第六百五十五条 委任の終了事由は、これを相手方に通知したとき、又は相手方がこれを知っていたときでなければ、これをもってその相手方に対抗することができない。 第六百五十五条  委任終了ノ事由ハ其委任者ニ出テタルト受任者ニ出テタルトヲ問ハス之ヲ相手方ニ通知シ又ハ相手方カ之ヲ知リタルトキニ非サレハ之ヲ以テ其相手方ニ対抗スルコトヲ得ス  
(準委任)    
第六百五十六条 この節の規定は、法律行為でない事務の委託について準用する。 第六百五十六条  本節ノ規定ハ法律行為ニ非サル事務ノ委託ニ之ヲ準用ス  
第十一節 寄託 第十一節 寄託  
(寄託)    
第六百五十七条 寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。 第六百五十七条  寄託ハ当事者ノ一方カ相手方ノ為メニ保管ヲ為スコトヲ約シテ或物ヲ受取ルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(寄託物の使用及び第三者による保管)    
第六百五十八条 受寄者は、寄託者の承諾を得なければ、寄託物を使用し、又は第三者にこれを保管させることができない。 第六百五十八条  受寄者ハ寄託者ノ承諾アルニ非サレハ受寄物ヲ使用シ又ハ第三者ヲシテ之ヲ保管セシムルコトヲ得ス  
2 第百五条及び第百七条第二項の規定は、受寄者が第三者に寄託物を保管させることができる場合について準用する。 2 受寄者カ第三者ヲシテ受寄物ヲ保管セシムルコトヲ得ル場合ニ於テハ第百五条及ヒ第百七条第二項ノ規定ヲ準用ス  
(無償受寄者の注意義務)    
第六百五十九条 無報酬で寄託を受けた者は、自己の財産に対するのと同一の注意をもって、寄託物を保管する義務を負う。 第六百五十九条  無報酬ニテ寄託ヲ受ケタル者ハ受寄物ノ保管ニ付キ自己ノ財産ニ於ケルト同一ノ注意ヲ為ス責ニ任ス  
(受寄者の通知義務)    
第六百六十条 寄託物について権利を主張する第三者が受寄者に対して訴えを提起し、又は差押え、仮差押え若しくは仮処分をしたときは、受寄者は、遅滞なくその事実を寄託者に通知しなければならない。 第六百六十条  寄託物ニ付キ権利ヲ主張スル第三者カ受寄者ニ対シテ訴ヲ提起シ又ハ差押ヲ為シタルトキハ受寄者ハ遅滞ナク其事実ヲ寄託者ニ通知スルコトヲ要ス 寄託を受けた者(受寄者)は,権利を主張する第三者が寄託物に対して差押えをしたときのみならず,仮差押え又は仮処分をしたときも,その旨を寄託をした者(寄託者)に通知しなければならない旨を明らかにしている。
(寄託者による損害賠償)    
第六百六十一条 寄託者は、寄託物の性質又は瑕疵によって生じた損害を受寄者に賠償しなければならない。ただし、寄託者が過失なくその性質若しくは瑕疵を知らなかったとき、又は受寄者がこれを知っていたときは、この限りでない。 第六百六十一条  寄託者ハ寄託物ノ性質又ハ瑕疵ヨリ生シタル損害ヲ受寄者ニ賠償スルコトヲ要ス但寄託者カ過失ナクシテ其性質若クハ瑕疵ヲ知ラサリシトキ又ハ受寄者カ之ヲ知リタルトキハ此限ニ在ラス  
(寄託者による返還請求)    
第六百六十二条 当事者が寄託物の返還の時期を定めたときであっても、寄託者は、いつでもその返還を請求することができる。 第六百六十二条  当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メタルトキト雖モ寄託者ハ何時ニテモ其返還ヲ請求スルコトヲ得  
(寄託物の返還の時期)    
第六百六十三条 当事者が寄託物の返還の時期を定めなかったときは、受寄者は、いつでもその返還をすることができる。 第六百六十三条  当事者カ寄託物返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ受寄者ハ何時ニテモ其返還ヲ為スコトヲ得  
2 返還の時期の定めがあるときは、受寄者は、やむを得ない事由がなければ、その期限前に返還をすることができない。 2 返還時期ノ定アルトキハ受寄者ハ已ムコトヲ得サル事由アルニ非サレハ其期限前ニ返還ヲ為スコトヲ得ス  
(寄託物の返還の場所)    
第六百六十四条 寄託物の返還は、その保管をすべき場所でしなければならない。ただし、受寄者が正当な事由によってその物を保管する場所を変更したときは、その現在の場所で返還をすることができる。 第六百六十四条  寄託物ノ返還ハ其保管ヲ為スヘキ場所ニ於テ之ヲ為スコトヲ要ス但受寄者カ正当ノ事由ニ因リテ其物ヲ転置シタルトキハ其現在ノ場所ニ於テ之ヲ返還スルコトヲ得  
(委任の規定の準用)    
第六百六十五条 第六百四十六条から第六百五十条まで(同条第三項を除く。)の規定は、寄託について準用する。 第六百六十五条  第六百四十六条乃至第六百四十九条及ヒ第六百五十条第一項、第二項ノ規定ハ寄託ニ之ヲ準用ス  
(消費寄託)    
第六百六十六条 第五節(消費貸借)の規定は、受寄者が契約により寄託物を消費することができる場合について準用する。 第六百六十六条  受寄者カ契約ニ依リ受寄物ヲ消費スルコトヲ得ル場合ニ於テハ消費貸借ニ関スル規定ヲ準用ス但契約ニ返還ノ時期ヲ定メサリシトキハ寄託者ハ何時ニテモ返還ヲ請求スルコトヲ得  
2 前項において準用する第五百九十一条第一項の規定にかかわらず、前項の契約に返還の時期を定めなかったときは、寄託者は、いつでも返還を請求することができる。    
第十二節 組合 第十二節 組合  
(組合契約)    
第六百六十七条 組合契約は、各当事者が出資をして共同の事業を営むことを約することによって、その効力を生ずる。 第六百六十七条  組合契約ハ各当事者カ出資ヲ為シテ共同ノ事業ヲ営ムコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
2 出資は、労務をその目的とすることができる。 2 出資ハ労務ヲ以テ其目的ト為スコトヲ得  
(組合財産の共有)    
第六百六十八条 各組合員の出資その他の組合財産は、総組合員の共有に属する。 第六百六十八条  各組合員ノ出資其他ノ組合財産ハ総組合員ノ共有ニ属ス  
(金銭出資の不履行の責任)    
第六百六十九条 金銭を出資の目的とした場合において、組合員がその出資をすることを怠ったときは、その利息を支払うほか、損害の賠償をしなければならない。 第六百六十九条  金銭ヲ以テ出資ノ目的ト為シタル場合ニ於テ組合員カ其出資ヲ為スコトヲ怠リタルトキハ其利息ヲ払フ外尚ホ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス  
(業務の執行の方法)    
第六百七十条 組合の業務の執行は、組合員の過半数で決する。 第六百七十条  組合ノ業務執行ハ組合員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス  
2 前項の業務の執行は、組合契約でこれを委任した者(次項において「業務執行者」という。)が数人あるときは、その過半数で決する。 2 組合契約ヲ以テ業務ノ執行ヲ委任シタル者数人アルトキハ其過半数ヲ以テ之ヲ決ス  
3 組合の常務は、前二項の規定にかかわらず、各組合員又は各業務執行者が単独で行うことができる。ただし、その完了前に他の組合員又は業務執行者が異議を述べたときは、この限りでない。 3 組合ノ常務ハ前二項ノ規定ニ拘ハラス各組合員又ハ各業務執行者之ヲ専行スルコトヲ得但其結了前ニ他ノ組合員又ハ業務執行者カ異議ヲ述ヘタルトキハ此限ニ在ラス  
(委任の規定の準用)    
第六百七十一条 第六百四十四条から第六百五十条までの規定は、組合の業務を執行する組合員について準用する。 第六百七十一条  組合ノ業務ヲ執行スル組合員ニハ第六百四十四条乃至第六百五十条ノ規定ヲ準用ス  
(業務執行組合員の辞任及び解任)    
第六百七十二条 組合契約で一人又は数人の組合員に業務の執行を委任したときは、その組合員は、正当な事由がなければ、辞任することができない。 第六百七十二条  組合契約ヲ以テ一人又ハ数人ノ組合員ニ業務ノ執行ヲ委任シタルトキハ其組合員ハ正当ノ事由アルニ非サレハ辞任ヲ為スコトヲ得ス又解任セラルルコトナシ  
2 前項の組合員は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によって解任することができる。 2 正当ノ事由ニ因リテ解任ヲ為スニハ他ノ組合員ノ一致アルコトヲ要ス  
(組合員の組合の業務及び財産状況に関する検査)    
第六百七十三条 各組合員は、組合の業務を執行する権利を有しないときであっても、その業務及び組合財産の状況を検査することができる。 第六百七十三条  各組合員ハ組合ノ業務ヲ執行スル権利ヲ有セサルトキト雖モ其業務及ヒ組合財産ノ状況ヲ検査スルコトヲ得  
(組合員の損益分配の割合)    
第六百七十四条 当事者が損益分配の割合を定めなかったときは、その割合は、各組合員の出資の価額に応じて定める。 第六百七十四条  当事者カ損益分配ノ割合ヲ定メサリシトキハ其割合ハ各組合員ノ出資ノ価額ニ応シテ之ヲ定ム  
2 利益又は損失についてのみ分配の割合を定めたときは、その割合は、利益及び損失に共通であるものと推定する。 2 利益又ハ損失ニ付テノミ分配ノ割合ヲ定メタルトキハ其割合ハ利益及ヒ損失ニ共通ナルモノト推定ス  
(組合員に対する組合の債権者の権利の行使)    
第六百七十五条 組合の債権者は、その債権の発生の時に組合員の損失分担の割合を知らなかったときは、各組合員に対して等しい割合でその権利を行使することができる。 第六百七十五条  組合ノ債権者ハ其債権発生ノ当時組合員ノ損失分担ノ割合ヲ知ラサリシトキハ各組合員ニ対シ均一部分ニ付キ其権利ヲ行フコトヲ得  
(組合員の持分の処分及び組合財産の分割)    
第六百七十六条 組合員は、組合財産についてその持分を処分したときは、その処分をもって組合及び組合と取引をした第三者に対抗することができない。 第六百七十六条  組合員カ組合財産ニ付キ其持分ヲ処分シタルトキハ其処分ハ之ヲ以テ組合及ヒ組合ト取引ヲ為シタル第三者ニ対抗スルコトヲ得ス  
2 組合員は、清算前に組合財産の分割を求めることができない。 2 組合員ハ清算前ニ組合財産ノ分割ヲ求ムルコトヲ得ス  
(組合の債務者による相殺の禁止)    
第六百七十七条 組合の債務者は、その債務と組合員に対する債権とを相殺することができない。 第六百七十七条  組合ノ債務者ハ其債務ト組合員ニ対スル債権トヲ相殺スルコトヲ得ス  
(組合員の脱退)    
第六百七十八条 組合契約で組合の存続期間を定めなかったとき、又はある組合員の終身の間組合が存続すべきことを定めたときは、各組合員は、いつでも脱退することができる。ただし、やむを得ない事由がある場合を除き、組合に不利な時期に脱退することができない。 第六百七十八条  組合契約ヲ以テ組合ノ存続期間ヲ定メサリシトキ又ハ或組合員ノ終身間組合ノ存続スヘキコトヲ定メタルトキハ各組合員ハ何時ニテモ脱退ヲ為スコトヲ得但已ムコトヲ得サル事由アル場合ヲ除ク外組合ノ為メ不利ナル時期ニ於テ之ヲ為スコトヲ得ス  
2 組合の存続期間を定めた場合であっても、各組合員は、やむを得ない事由があるときは、脱退することができる。 2 組合ノ存続期間ヲ定メタルトキト雖モ各組合員ハ已ムコトヲ得サル事由アルトキハ脱退ヲ為スコトヲ得  
第六百七十九条 前条の場合のほか、組合員は、次に掲げる事由によって脱退する。 第六百七十九条  前条ニ掲ケタル場合ノ外組合員ハ左ノ事由ニ因リテ脱退ス  
一 死亡 一  死亡  
二 破産手続開始の決定を受けたこと。 二  破産  
三 後見開始の審判を受けたこと。 三  後見開始ノ審判ヲ受ケタルコト  
四 除名 四  除名  
(組合員の除名)    
第六百八十条 組合員の除名は、正当な事由がある場合に限り、他の組合員の一致によってすることができる。ただし、除名した組合員にその旨を通知しなければ、これをもってその組合員に対抗することができない。 第六百八十条  組合員ノ除名ハ正当ノ事由アル場合ニ限リ他ノ組合員ノ一致ヲ以テ之ヲ為スコトヲ得但除名シタル組合員ニ其旨ヲ通知スルニ非サレハ之ヲ以テ其組合員ニ対抗スルコトヲ得ス  
(脱退した組合員の持分の払戻し)    
第六百八十一条 脱退した組合員と他の組合員との間の計算は、脱退の時における組合財産の状況に従ってしなければならない。 第六百八十一条  脱退シタル組合員ト他ノ組合員トノ間ノ計算ハ脱退ノ当時ニ於ケル組合財産ノ状況ニ従ヒ之ヲ為スコトヲ要ス  
2 脱退した組合員の持分は、その出資の種類を問わず、金銭で払い戻すことができる。 2 脱退シタル組合員ノ持分ハ其出資ノ種類如何ヲ問ハス金銭ヲ以テ之ヲ払戻スコトヲ得  
3 脱退の時にまだ完了していない事項については、その完了後に計算をすることができる。 3 脱退ノ当時ニ於テ未タ結了セサル事項ニ付テハ其結了後ニ計算ヲ為スコトヲ得  
(組合の解散事由)    
第六百八十二条 組合は、その目的である事業の成功又はその成功の不能によって解散する。 第六百八十二条  組合ハ其目的タル事業ノ成功又ハ其成功ノ不能ニ因リテ解散ス  
(組合の解散の請求)    
第六百八十三条 やむを得ない事由があるときは、各組合員は、組合の解散を請求することができる。 第六百八十三条  已ムコトヲ得サル事由アルトキハ各組合員ハ組合ノ解散ヲ請求スルコトヲ得  
(組合契約の解除の効力)    
第六百八十四条 第六百二十条の規定は、組合契約について準用する。 第六百八十四条  第六百二十条ノ規定ハ組合契約ニ之ヲ準用ス  
(組合の清算及び清算人の選任)    
第六百八十五条 組合が解散したときは、清算は、総組合員が共同して、又はその選任した清算人がこれをする。 第六百八十五条  組合カ解散シタルトキハ清算ハ総組合員共同ニテ又ハ其選任シタル者ニ於テ之ヲ為ス  
2 清算人の選任は、総組合員の過半数で決する。 2 清算人ノ選任ハ総組合員ノ過半数ヲ以テ之ヲ決ス  
(清算人の業務の執行の方法)    
第六百八十六条 第六百七十条の規定は、清算人が数人ある場合について準用する。 第六百八十六条  清算人数人アルトキハ第六百七十条ノ規定ヲ準用ス  
(組合員である清算人の辞任及び解任)    
第六百八十七条 第六百七十二条の規定は、組合契約で組合員の中から清算人を選任した場合について準用する。 第六百八十七条  組合契約ヲ以テ組合員中ヨリ清算人ヲ選任シタルトキハ第六百七十二条ノ規定ヲ準用ス  
(清算人の職務及び権限並びに残余財産の分割方法)    
第六百八十八条 第七十八条の規定は、清算人の職務及び権限について準用する。 第六百八十八条  清算人ノ職務及ヒ権限ニ付テハ第七十八条ノ規定ヲ準用ス  
2 残余財産は、各組合員の出資の価額に応じて分割する。 2 残余財産ハ各組合員ノ出資ノ価額ニ応シテ之ヲ分割ス  
第十三節 終身定期金 第十三節 終身定期金  
(終身定期金契約)    
第六百八十九条 終身定期金契約は、当事者の一方が、自己、相手方又は第三者の死亡に至るまで、定期に金銭その他の物を相手方又は第三者に給付することを約することによって、その効力を生ずる。 第六百八十九条  終身定期金契約ハ当事者ノ一方カ自己、相手方又ハ第三者ノ死亡ニ至ルマテ定期ニ金銭其他ノ物ヲ相手方又ハ第三者ニ給付スルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(終身定期金の計算)    
第六百九十条 終身定期金は、日割りで計算する。 第六百九十条  終身定期金ハ日割ヲ以テ之ヲ計算ス  
(終身定期金契約の解除)    
第六百九十一条 終身定期金債務者が終身定期金の元本を受領した場合において、その終身定期金の給付を怠り、又はその他の業務を履行しないときは、相手方は、元本の返還を請求することができる。この場合において、相手方は、既に受け取った終身定期金の中からその元本の利息を控除した残額を終身定期金債務者に返還しなければならない。 第六百九十一条  定期金債務者カ定期金ノ元本ヲ受ケタル場合ニ於テ其定期金ノ給付ヲ怠リ又ハ其他ノ義務ヲ履行セサルトキハ相手方ハ元本ノ返還ヲ請求スルコトヲ得但既ニ受取リタル定期金ノ中ヨリ其元本ノ利息ヲ控除シタル残額ヲ債務者ニ返還スルコトヲ要ス  
2 前項の規定は、損害賠償の請求を妨げない。 2 前項ノ規定ハ損害賠償ノ請求ヲ妨ケス  
(終身定期金契約の解除と同時履行)    
第六百九十二条 第五百三十三条の規定は、前条の場合について準用する。 第六百九十二条  第五百三十三条ノ規定ハ前条ノ場合ニ之ヲ準用ス  
(終身定期金債権の存続の宣告)    
第六百九十三条 終身定期金債務者の責めに帰すべき事由によって第六百八十九条に規定する死亡が生じたときは、裁判所は、終身定期金債権者又はその相続人の請求により、終身定期金債権が相当の期間存続することを宣告することができる。 第六百九十三条  死亡カ定期金債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ生シタルトキハ裁判所ハ債権者又ハ其相続人ノ請求ニ因リ相当ノ期間債権ノ存続スルコトヲ宣告スルコトヲ得  
2 前項の規定は、第六百九十一条の権利の行使を妨げない。 2 前項ノ規定ハ第六百九十一条ニ定メタル権利ノ行使ヲ妨ケス  
(終身定期金の遺贈)    
第六百九十四条 この節の規定は、終身定期金の遺贈について準用する。 第六百九十四条  本節ノ規定ハ終身定期金ノ遺贈ニ之ヲ準用ス  
第十四節 和解 第十四節 和解  
(和解)    
第六百九十五条 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約することによって、その効力を生ずる。 第六百九十五条  和解ハ当事者カ互ニ譲歩ヲ為シテ其間ニ存スル争ヲ止ムルコトヲ約スルニ因リテ其効力ヲ生ス  
(和解の効力)    
第六百九十六条 当事者の一方が和解によって争いの目的である権利を有するものと認められ、又は相手方がこれを有しないものと認められた場合において、その当事者の一方が従来その権利を有していなかった旨の確証又は相手方がこれを有していた旨の確証が得られたときは、その権利は、和解によってその当事者の一方に移転し、又は消滅したものとする。 第六百九十六条  当事者ノ一方カ和解ニ依リテ争ノ目的タル権利ヲ有スルモノト認メラレ又ハ相手方カ之ヲ有セサルモノト認メラレタル場合ニ於テ其者カ従来此権利ヲ有セサリシ確証又ハ相手方カ之ヲ有セシ確証出テタルトキハ其権利ハ和解ニ因リテ其者ニ移転シ又ハ消滅シタルモノトス  
第三章 事務管理 第三章 事務管理  
(事務管理)    
第六百九十七条 義務なく他人のために事務の管理を始めた者(以下この章において「管理者」という。)は、その事務の性質に従い、最も本人の利益に適合する方法によって、その事務の管理(以下「事務管理」という。)をしなければならない。 第六百九十七条  義務ナクシテ他人ノ為メニ事務ノ管理ヲ始メタル者ハ其事務ノ性質ニ従ヒ最モ本人ノ利益ニ適スヘキ方法ニ依リテ其管理ヲ為スコトヲ要ス  
2 管理者は、本人の意思を知っているとき、又はこれを推知することができるときは、その意思に従って事務管理をしなければならない。 2 管理者カ本人ノ意思ヲ知リタルトキ又ハ之ヲ推知スルコトヲ得ヘキトキハ其意思ニ従ヒテ管理ヲ為スコトヲ要ス  
(緊急事務管理)    
第六百九十八条 管理者は、本人の身体、名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは、悪意又は重大な過失があるのでなければ、これによって生じた損害を賠償する責任を負わない。 第六百九十八条  管理者カ本人ノ身体、名誉又ハ財産ニ対スル急迫ノ危害ヲ免レシムル為メニ其事務ノ管理ヲ為シタルトキハ悪意又ハ重大ナル過失アルニ非サレハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス  
(管理者の通知義務)    
第六百九十九条 管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。 第六百九十九条  管理者ハ其管理ヲ始メタルコトヲ遅滞ナク本人ニ通知スルコトヲ要ス但本人カ既ニ之ヲ知レルトキハ此限ニ在ラス  
(管理者による事務管理の継続)    
第七百条 管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。 第七百条  管理者ハ本人、其相続人又ハ法定代理人カ管理ヲ為スコトヲ得ルニ至ルマテ其管理ヲ継続スルコトヲ要ス但其管理ノ継続カ本人ノ意思ニ反シ又ハ本人ノ為メニ不利ナルコト明カナルトキハ此限ニ在ラス  
(委任の規定の準用)    
第七百一条 第六百四十五条から第六百四十七条までの規定は、事務管理について準用する。 第七百一条  第六百四十五条乃至第六百四十七条ノ規定ハ事務管理ニ之ヲ準用ス  
(管理者による費用の償還請求等)    
第七百二条 管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。 第七百二条  管理者カ本人ノ為メニ有益ナル費用ヲ出タシタルトキハ本人ニ対シテ其償還ヲ請求スルコトヲ得  
2 第六百五十条第二項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。 2 管理者カ本人ノ為メニ有益ナル債務ヲ負担シタルトキハ第六百五十条第二項ノ規定ヲ準用ス  
3 管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。 3 管理者カ本人ノ意思ニ反シテ管理ヲ為シタルトキハ本人カ現ニ利益ヲ受クル限度ニ於テノミ前二項ノ規定ヲ適用ス  
第四章 不当利得 第四章 不当利得  
(不当利得の返還義務)    
第七百三条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。 第七百三条  法律上ノ原因ナクシテ他人ノ財産又ハ労務ニ因リ利益ヲ受ケ之カ為メニ他人ニ損失ヲ及ホシタル者ハ其利益ノ存スル限度ニ於テ之ヲ返還スル義務ヲ負フ  
(悪意の受益者の返還義務等)    
第七百四条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。 第七百四条  悪意ノ受益者ハ其受ケタル利益ニ利息ヲ附シテ之ヲ返還スルコトヲ要ス尚ホ損害アリタルトキハ其賠償ノ責ニ任ス  
(債務の不存在を知ってした弁済)    
第七百五条 債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。 第七百五条  債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタル者カ其当時債務ノ存在セサルコトヲ知リタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス  
(期限前の弁済)    
第七百六条 債務者は、弁済期にない債務の弁済として給付をしたときは、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、債務者が錯誤によってその給付をしたときは、債権者は、これによって得た利益を返還しなければならない。 第七百六条  債務者カ弁済期ニ在ラサル債務ノ弁済トシテ給付ヲ為シタルトキハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但債務者カ錯誤ニ因リテ其給付ヲ為シタルトキハ債権者ハ之ニ因リテ得タル利益ヲ返還スルコトヲ要ス  
(他人の債務の弁済)    
第七百七条 債務者でない者が錯誤によって債務の弁済をした場合において、債権者が善意で証書を滅失させ若しくは損傷し、担保を放棄し、又は時効によってその債権を失ったときは、その弁済をした者は、返還の請求をすることができない。 第七百七条  債務者ニ非サル者カ錯誤ニ因リテ債務ノ弁済ヲ為シタル場合ニ於テ債権者カ善意ニテ証書ヲ毀滅シ、担保ヲ抛棄シ又ハ時効ニ因リテ其債権ヲ失ヒタルトキハ弁済者ハ返還ノ請求ヲ為スコトヲ得ス  
2 前項の規定は、弁済をした者から債務者に対する求償権の行使を妨げない。 2 前項ノ規定ハ弁済者ヨリ債務者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス  
(不法原因給付)    
第七百八条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。 第七百八条  不法ノ原因ノ為メ給付ヲ為シタル者ハ其給付シタルモノノ返還ヲ請求スルコトヲ得ス但不法ノ原因カ受益者ニ付テノミ存シタルトキハ此限ニ在ラス  
第五章 不法行為 第五章 不法行為  
(不法行為による損害賠償)    
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。 第七百九条  故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス 故意又は過失により他人の権利を侵害した者のみならず,他人の法律上保護される利益を侵害した者も,不法行為に基づく損害賠償の責任を負う旨を明らかにしている。
(財産以外の損害の賠償)    
第七百十条 他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。 第七百十条  他人ノ身体、自由又ハ名誉ヲ害シタル場合ト財産権ヲ害シタル場合トヲ問ハス前条ノ規定ニ依リテ損害賠償ノ責ニ任スル者ハ財産以外ノ損害ニ対シテモ其賠償ヲ為スコトヲ要ス  
(近親者に対する損害の賠償)    
第七百十一条 他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。 第七百十一条  他人ノ生命ヲ害シタル者ハ被害者ノ父母、配偶者及ヒ子ニ対シテハ其財産権ヲ害セラレサリシ場合ニ於テモ損害ノ賠償ヲ為スコトヲ要ス 他人の身体を侵害した者は,被害者の父母,配偶者又は子が被害者の生命を侵害されたときと同等の精神的苦痛を受けたときは,生命侵害の場合と同様に,その精神的損害について賠償の責任を負う旨を明らかにしている。
(責任能力)    
第七百十二条 未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。 第七百十二条  未成年者カ他人ニ損害ヲ加ヘタル場合ニ於テ其行為ノ責任ヲ弁識スルニ足ルヘキ知能ヲ具ヘサリシトキハ其行為ニ付キ賠償ノ責ニ任セス  
第七百十三条 精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。 第七百十三条  精神上ノ障害ニ因リ自己ノ行為ノ責任ヲ弁識スル能力ヲ欠ク状態ニ在ル間ニ他人ニ損害ヲ加ヘタル者ハ賠償ノ責ニ任セス但故意又ハ過失ニ因リテ一時其状態ヲ招キタルトキハ此限ニ在ラス  
(責任無能力者の監督義務者等の責任)    
第七百十四条 前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 第七百十四条  前二条ノ規定ニ依リ無能力者ニ責任ナキ場合ニ於テ之ヲ監督スヘキ法定ノ義務アル者ハ其無能力者カ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但監督義務者カ其義務ヲ怠ラサリシトキハ此限ニ在ラス  
2 監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。 2 監督義務者ニ代ハリテ無能力者ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス  
(使用者等の責任)    
第七百十五条 ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 第七百十五条  或事業ノ為メニ他人ヲ使用スル者ハ被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但使用者カ被用者ノ選任及ヒ其事業ノ監督ニ付キ相当ノ注意ヲ為シタルトキ又ハ相当ノ注意ヲ為スモ損害カ生スヘカリシトキハ此限ニ在ラス  
2 使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。 2 使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者モ亦前項ノ責ニ任ス  
3 前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。 3 前二項ノ規定ハ使用者又ハ監督者ヨリ被用者ニ対スル求償権ノ行使ヲ妨ケス  
(注文者の責任)    
第七百十六条 注文者は、請負人がその仕事について第三者に加えた損害を賠償する責任を負わない。ただし、注文又は指図についてその注文者に過失があったときは、この限りでない。 第七百十六条  注文者ハ請負人カ其仕事ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任セス但注文又ハ指図ニ付キ注文者ニ過失アリタルトキハ此限ニ在ラス  
(土地の工作物等の占有者及び所有者の責任)    
第七百十七条 土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 第七百十七条  土地ノ工作物ノ設置又ハ保存ニ瑕疵アルニ因リテ他人ニ損害ヲ生シタルトキハ其工作物ノ占有者ハ被害者ニ対シテ損害賠償ノ責ニ任ス但占有者カ損害ノ発生ヲ防止スルニ必要ナル注意ヲ為シタルトキハ其損害ハ所有者之ヲ賠償スルコトヲ要ス  
2 前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 2 前項ノ規定ハ竹木ノ栽植又ハ支持ニ瑕疵アル場合ニ之ヲ準用ス  
3 前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。 3 前二項ノ場合ニ於テ他ニ損害ノ原因ニ付キ其責ニ任スヘキ者アルトキハ占有者又ハ所有者ハ之ニ対シテ求償権ヲ行使スルコトヲ得  
(動物の占有者等の責任)    
第七百十八条 動物の占有者は、その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは、この限りでない。 第七百十八条  動物ノ占有者ハ其動物カ他人ニ加ヘタル損害ヲ賠償スル責ニ任ス但動物ノ種類及ヒ性質ニ従ヒ相当ノ注意ヲ以テ其保管ヲ為シタルトキハ此限ニ在ラス  
2 占有者に代わって動物を管理する者も、前項の責任を負う。 2 占有者ニ代ハリテ動物ヲ保管スル者モ亦前項ノ責ニ任ス  
(共同不法行為者の責任)    
第七百十九条 数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 第七百十九条  数人カ共同ノ不法行為ニ因リテ他人ニ損害ヲ加ヘタルトキハ各自連帯ニテ其賠償ノ責ニ任ス共同行為者中ノ孰レカ其損害ヲ加ヘタルカヲ知ルコト能ハサルトキ亦同シ  
2 行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。 2 教唆者及ヒ幇助者ハ之ヲ共同行為者ト看做ス  
(正当防衛及び緊急避難)    
第七百二十条 他人の不法行為に対し、自己又は第三者の権利又は法律上保護される利益を防衛するため、やむを得ず加害行為をした者は、損害賠償の責任を負わない。ただし、被害者から不法行為をした者に対する損害賠償の請求を妨げない。 第七百二十条  他人ノ不法行為ニ対シ自己又ハ第三者ノ権利ヲ防衛スル為メ已ムコトヲ得スシテ加害行為ヲ為シタル者ハ損害賠償ノ責ニ任セス但被害者ヨリ不法行為ヲ為シタル者ニ対スル損害賠償ノ請求ヲ妨ケス 他人の不法行為に対し,自己又は第三者の権利を防衛するためのみならず,その法律上保護される利益を防衛するため,やむを得ず加害行為をした場合にも正当防衛が成立し損害賠償の責任を負わない旨を明らかにしている。
2 前項の規定は、他人の物から生じた急迫の危難を避けるためその物を損傷した場合について準用する。 2 前項ノ規定ハ他人ノ物ヨリ生シタル急迫ノ危難ヲ避クル為メ其物ヲ毀損シタル場合ニ之ヲ準用ス  
(損害賠償請求権に関する胎児の権利能力)    
第七百二十一条 胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。 第七百二十一条  胎児ハ損害賠償ノ請求権ニ付テハ既ニ生マレタルモノト看做ス  
(損害賠償の方法及び過失相殺)    
第七百二十二条 第四百十七条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。 第七百二十二条  第四百十七条ノ規定ハ不法行為ニ因ル損害ノ賠償ニ之ヲ準用ス  
2 被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。 2 被害者ニ過失アリタルトキハ裁判所ハ損害賠償ノ額ヲ定ムルニ付キ之ヲ斟酌スルコトヲ得  
(名誉毀損における原状回復)    
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。 第七百二十三条  他人ノ名誉ヲ毀損シタル者ニ対シテハ裁判所ハ被害者ノ請求ニ因リ損害賠償ニ代ヘ又ハ損害賠償ト共ニ名誉ヲ回復スルニ適当ナル処分ヲ命スルコトヲ得  
(不法行為による損害賠償請求権の期間の制限)    
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。 第七百二十四条  不法行為ニ因ル損害賠償ノ請求権ハ被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス不法行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ